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ちゃんとやろうよ。翻訳を!

遅ればせながら。

今回は何を話そうかと思っていた矢先に出たあの話題。

Xでは私の考えをいろいろポストはしてみたのですが、翻訳者の目線から見た、ディープシーク社AIについての感想をやはりここでももう少し話りたいと思います。

このニュース、日本や西側にとっては経済安全保障上問題があるとか、中国側は「いやそうではない」とか、いろいろ言われていますが、驚きを持ってこのニュースを見た人はかなりいたという印象を私は受けました。それは「この中国産を使えば、安価でOpenAI並みのAIシステムを誰でも使える」という社会になりつつあると認識が広まったからです。

これはどういうことか。数多くのタスクが、「これまでよりもずっと安いコスト」でこなせるようになる未来がもうすぐそこに来ているということだと私は考えます。

この「数多くのタスク」の中には当然ながら、翻訳・通訳を含まれます。しかも、、このディープシークAIは中国産なわけですから、日本語⇔中国語のローカライズは特に「お手の物」といえるでしょう。われわれ中日・日中翻訳者にとっては脅威でしかありません。

だからというわけではないですが、近い将来「翻訳通訳も淘汰される時代」がやってくるのでしょう。私自身は当noteで、「翻訳・通訳がAIにとって代わる時代は当分先だ」みたいなことを言っていた気がしますが、うかうかしていられなくなったなあというのが、今の感想です。

◇◇

ここから思い出されるのは私の会社の先輩から常々聞かされていた話です。

私が今勤務している会社は、数十年以上の歴史がある古い会社です。

いまは原稿を印刷して成果物にする場合、パソコンを使えば簡単にできますが、パソコンの前はワープロ、そしてワープロが使われていた前の時代はどうだったかというと、翻訳原稿をいちいち専用のタイプ機を使い、印刷していたそうです。

当然ながらタイプ機を使う業務は骨が折れ、大変でしたから、そのころは「タイピスト」さんと呼ばれる人たちが10人以上いて、24時間フル稼働で翻訳原稿をタイプしていたそうです。

でもワープロ、パソコンと設備がグレードアップするにつれ、「タイピスト」さんはみるみる減り、今では当時の現状を知る元タイピストさんは数人になってしまったのです。

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このような経緯から示唆されるものは何か。会社の上司から「君はもういらないから」と言われたり、クライアントさんから、「AIを使うのであなたへの翻訳発注を打ち切りにします」と宣告される未来です。

では私たち翻訳・通訳従事者は指をくわえてその移り変わりを見るしかないのか・・といわれるとやはり違うのかなとも思っています。

これから生き残っていく翻訳者になるためにはどうすればいいのか、「AIが生み出す翻訳との違いを出せる訳」をつくるという作業を愚直に続けることでしょう。そうすれば少なくともあと10年はAIの発展にあらがえるのではと私は思っています。具体的に言うならば「自分の翻訳力を高める」という作業です。

つまり、外国語力(私たちで言えば中国語力)と日本語力をしっかりと高めておくこと。「これなら誰にも(AIにも)負けない」というものを作っておくこと。きたるべきAI時代にわれわれ生身の人間が備えられるのはそこだと私は思っています。

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AIは過去に学習したものを瞬時にだしていくという作業は得意だと聞きます。同じ語句やフレーズを繰り返し使う産業翻訳、医療翻訳は厳しくなるかもしれません。

一方でディープシークAIの問題で明らかになったように、現在AIには制作されたその国の政治性やイデオロギーが色濃く反映されています。言い換えれば、「まだまだ生身の人間が介入している分野は残っている」ということです。

ここから思うに、ニュース翻訳はイデオロギー的要素の介入の余地が大きいAI翻訳との相性はそれほど良くはないですし、中立性を維持したい法廷翻訳もAIを使用することはかなり危険だと私は思っています。「リテラシー意識」が高いクライアントならば、生身の人間によるニュース翻訳、法廷翻訳の道は当分確保されているともいえるでしょう。ここに「違い」をつくれる可能性はあります。

さらに言うならば、文芸翻訳などはまだかなりチャンスは残されています。AIは「過去に学習したものを瞬時にだしていくという作業」は得意ですが、「新しいものをつくり出す」という作業は得意とはしていないからです。

◇◇

生半可な意識でやっている翻訳者・通訳者は淘汰される時代がもうそこまで来ているのです。淘汰されない翻訳者になるためには何をすればいいのか。ようするに「しっかりやろうよ!翻訳を」。この一言に尽きるでしょう。


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