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差別用語をどう処理するか(再度注意喚起)。

記事や文章を読んだり、日中・中日の通訳をするとよく直面する中国独自の問題は何だと思いますか?

いろいろあるとは思うのですが、その一つに「差別用語を日本語に訳す場合、どう処理するか」というものがあると私は考えています。

実際のところ中国人と直接話すと、いわゆる「差別的」「侮蔑的」な言葉は日常的に出てきます。

私自身は日本人ですので、「日本人を直接揶揄・差別する用語」を面と向かって言われると心が穏やかではなくなりますし、「だから中国人は」思いたくなってしまいます。他の国の人たちを揶揄・差別したりする言葉を耳にしたら、やはり同じような気持ちになります。皆さんもそのような経験、一回はしたことあるのではないでしょうか。

だからこそ、通訳でアテンドしたり、同時通訳、通訳ガイドをしたりする人はほんとに尊敬します。そのような用語を瞬時に「当たり障りのない」言葉に変換して、なおかつ相手を怒らせないような臨機応変さも求められるからです。

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対して私の本職は中国メディアの記事の日本語化であり、個人の発言や会話を日本語に訳す機会はそれほど多くはありません。

このため、黑鬼、日本鬼子、倭寇、高丽棒子、曱甴(民主派の香港人を揶揄する言葉)などなど、、人種差別につながる言葉を取り扱う機会はほとんどありません。

この点からもわかるように、中国メディアは「人種差別に対する意識」について、一定程度歯止めはきいています。まあニュース原稿で汚い言葉を使えば、その国の品位も下がってしまいますからね。この点は自分自身も胸をなでおろしているところではあります。

ただ、それでも中国メディアのニュース記事を日本語に訳した時に注意すべき点で普通に存在します。象徴的なのは人の身体的特徴をとらえた語句でしょう。

例えば。皆さんは中国メディアに出てくる「盲人」という言葉をそのまま「盲人(もうじん)」と訳していませんか?これは、日本語のポリコレ的にはアウトなのです。ちゃんと「視覚障碍者」と訳す必要があります。

同じように、聋哑と言う言葉も注意が必要です。そのまま「聾唖(ろうあ)」とするケースもありますが、私ならば同じように「聴覚障害者」と訳すようにします。聾唖と言う言葉はグレーゾーンだからです。

台湾のニュースでよく使われている「原住民族」という言葉。これもそのまま日本語で「原住民(げんじゅうみん)」訳すと、「未開地に住んでいる人=土人」のような差別的な意味あいが出てきます。日本語に訳すなら「先住民(せんじゅうみん)」とするのが適切でしょう。

お気づきになった人もいるかもしれませんが、これら3つの語句は実は中国語原文に限って言うと、「差別的ニュアンス」は含まれていません。しかし日本語でそのまま漢字通りに訳してしまうと「差別的ニュアンス」になってしまうのです。このあたりは翻訳者自身の差別用語に対する知識と、日中両言語の違いに対する気付きが非常に大切になってきます。この点については、記者ハンドブックなど「公式で差別用語になっている日本語」をしっかり頭にたたきこんでおきましょう。

・・・とここまでは中国メディアの「品の良さ」を説明してきましたが、このタガが外れやすくなる時もあります。そう、台湾の指導者やチベット、ウイグル反政府指導者などを非難する場合です。

多くは「論評」なのですが、以前は口汚くののしるレベルの文章も多く見かけられました。私たちも「基準に則って」なるべく差別用語を使わないように努めてはいるのですが、原文のニュアンスを残しておいた方がいいと思われる語句もあって、どうしても判断が難しくなる場面に直面することはあります。

こういう場合は最低限「原文と訳語の併記」という形で逃げるようにしています。まあ「処世術」というか、「小細工」みたいなものですよね。

いまは「贬义词」「褒义词」の範疇にとどまる語句がほとんどでしょうか。これもしっかりと「違いを付けた」訳語を出すべきだと思うんですけどね。

とりあえず。「翻訳者はポリコレに敏感になれ」とは言わないのですが、最低限気にかけるようにしておきましょう。

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