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#11 座り心地が最高の椅子を求めて北欧デザインの一脚を手に入れた話

有名な北欧家具店に行った時に座ってみた一人用の椅子の座り心地がとても良く、そんな記憶がずっと残っていて、ガランとした自分の部屋に、座り心地が最高に良い椅子を置きたくなりました。

記憶にある椅子は、レストアームを兼ねた側面と背中の部分が一体となって少し緩やかな「コ」の字で体を包むような形状で、頭の後ろの支えはありませんが、背中から胴の部分がすっぽり収まるしっくりくる椅子で、布素材でできた柔らかめの椅子でした。

改めて、自分はどんな椅子を欲しているんだろうと考えてみました。ソファーではなく、リクライニング式でもなく、事務用の椅子でもない。ただ、だらっと過ごすことがないような椅子で、文字を書いたりパソコンを使用したりできて、リラックスして本も読めて、ずっと座っていて疲れない椅子、そんな一人用の椅子が欲しいんだとわかってきました。

とにかく座ってみないとわからないと思い、北欧家具チェーン店や「お値段以上」家具店、東京イン・・・やら多数のお店に出向いて、良さそうだとみると座ってみて確かめる、そんなことを繰り返しました。

ソファーやリクライニング式ではなくて、ずっと座っていて疲れない椅子とは? 世界最高の座り心地の椅子ってどんな椅子だろうと思い、「世界最高の椅子」「座り心地の良い椅子」などと検索してみました。検索すると、超高級家具、オークションで最高値となった家具や北欧デザイナーの家具など多数出てきます。

何度となく検索すると、一つの木製の椅子に目がとまりました。ご存知の方も多いかもしれませんが、北欧家具の巨匠ハンス・J・ウェグナー(Hans J. Wegner)の名を世に知らしめた最高傑作、「椅子の中の椅子」と敬意を込めて呼ばれている「ザ・チェア」(The Chair)でした。

1960年のアメリカ大統領選で、J・F・ケネディが、ニクソンとのテレビ討論会で座っていたこのラウンドチェアは、一夜にして有名になり、スミソニアン博物館に展示されると、「椅子の中の椅子」という意味で「 ザ・チェア」と呼ばれるようになったそうです。

ハンス・J・ウェグナーがデザインした「ザ・チェア」は、デンマーク家具デザインのアイコン的な存在で、1949年に発表され、正式名称は「JH501」です。ヨハネス・ハンセン工房で製造されていましたが、PPモブラー(PP Møbler)という家具メーカーが製造を引き継ぎ、より現代的な要求に対応するよう改良されました。1949年に座面が 「籐張り」 になっているモデル「PP501」、1950年に座面が 「レザー張り」 になっているモデル「PP503」がデザインされました。「PP503」は、現代的な価値を加えて洗練された椅子と言えます。

数多くのウェグナーの作品の中で「最も完成度が高い」といわれる美しさをもつ巨匠ハンス・J・ウェグナーの最高傑作、「椅子の中の椅子」の「 ザ・チェア」ですので、お値段も半端ありません。なんと、100万円越えです。デザイン(意匠)以外に、この価格の根拠となる特徴的なことは、同じ1本の木から取れた木材で椅子を完成させる点で、「ザ・チェア」に使う木材は同じ根から育った木を使うと決められているそうです。部品の経年変化の具合が同じとなり、長年経った姿が美しく、木の収縮率も同じですので、よりよい強度の椅子ができるそうです。

さすがに、この値段には手が出ませんが、一度、座り心地を確かめてみたいと思い、「ザ・チェア(PP503)」を探し、出かけて行き座ってみました。確かにしっかりした作りでゆったりとした座り心地です。木の手触りも素晴らしく、「ザ・チェア」の品質を実感する椅子でした。「ザ・チェア」には、次のような特徴があります。

快適性
・背もたれとアームレストが一体化した滑らかなデザインで、手に馴染む優れた形状。
人間工学に基づいた設計
・長時間座っても疲れにくい構造。
(笠木に背をきっちりと当てて座り、背を伸ばし、背骨を綺麗なS字カーブに保たせる)
・様々な姿勢をサポートする設計。
(人はどうしてもずっと正しい姿勢のまま何時間も座り続けることは難しいので、身体を座面の上でどんな方向に動かしてもいいように、座った時にちょっとゆとりができる座面スペースを設けた)
高品質な木材
・主にオーク材やウォールナット材が使用され、自然の木目を生かした美しい仕上がり。
・同じ1本の木から取れた木材から作られる。
デザインの忠実性
・オリジナルデザインを忠実に再現しており、ウェグナーのデザイン哲学をそのままに。

「ザ・チェア(PP503)」の座り心地、特徴や設計はかなり気に入りましたが、現実的な値段ではないので諦めかけていました。ところが、調べていくうちに思わぬ情報が得られました。意匠権が切れたリプロダクト品の「ザ・チェア(PP503)」の新品が4万円程で販売されていたのです。価格が2桁違います。デザインが忠実に再現されていて、写真で細部を見ても正規品との違いがわからない程です。

そこで十分に検討して、ついに、North Orange(ノースオレンジ)社が販売する「リプロダクト」と呼ばれる意匠権の切れたデザインの復刻品である「ザ・チェア(PP503)」を購入しました。通気性と快適性を考えて、座面はレザー張りではなくメッシュ仕様を選びました。

届いた椅子を見て、触って、座ってみると、機能性と美観を両立させるウェグナーのデザイン哲学がそのままに、オリジナルデザインは細部までこだわって忠実に再現されていて、背もたれとアームレストが一体化した滑らかな形状、手に馴染む優れた木の質感、人間工学に基づいた長時間座っても疲れにくい構造がそのままで、素晴らしい椅子でした。North Orangeは優れた品質の家具を提供する会社のようです。材質は、オーク材やウォールナット材ではないアッシュウッドが使用されていますが、自然の木目を生かした美しい仕上がりで、見せる継ぎ目「フィンガージョイント」も忠実に再現されていました。座面は柔らかく、メッシュ仕様は夏場でも快適です。

リプロダクト品ながら、巨匠ハンス・J・ウェグナーの最高傑作、北欧デンマークの家具「椅子の中の椅子」の「 ザ・チェア」を手に入れることができて大満足です。その「ザ・チェア(PP503)」に座って今もnoteを書いています。

読んでいただきありがとうございます。

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