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進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#41~多事多端の北東北函館旅:2日目(1)【宇都宮→新青森→五所川原】

 ハズレくさかったビジネスホテルを早々に脱出し、降りしきる雨と重いバッグに苦労しながら路面電車の駅に向かう。2024年11月15日(金)朝5時42分発の宇都宮ライトレール峰駅から今日の旅が始まる。
 国内で75年ぶりの新規路面電車として昨年開業した宇都宮ライトレールは、JR宇都宮駅と隣町の芳賀工業団地駅間の約15キロを結んでいる。昨夜は駅東公園前駅までの2駅、今日はもうひとつ向こうの峰駅から宇都宮駅までの3駅乗車で、ベイスターズ優先で計画を組み直した結果、全線踏破ではなくサワリ乗車になってしまった。
 宇都宮駅、正確には宇都宮駅東口駅というのだが、そこまでは僅か8分で到着する。始発のためか2両編成に乗客は数えるほどしかいない。もっとも経営は中々順調なようで、JRをまたいだ西側市街地への延伸も計画されているらしい。ブラックをベースに黄色いラインのデザインが鮮やかな真新しい車両は当然ながら快適で揺れも少なく、乗り心地は申し分ない。今後とも頑張って欲しいものである。

 少し空が明るくなってきた頃に路面電車を降り、宇都宮駅の烏山線ホームに向かう。烏山線は正式には2つ先の宝積寺という駅が起点なのだが、殆どの列車が宇都宮発着となっている。宝積寺から終点烏山までは約20キロ、駅数は8つのローカル線で、EV-E301系という変わり種の電車が走っている。
 宇都宮から宝積寺までは東北本線を走るので電化区間、宝積寺から先は非電化なので普通はディーゼルカーの出番なのだが、2014年から投入されたこの車両は簡単に言えば「非電化区間は蓄電池で走る電車」、愛称は「ACCUM(アキュム)」、これは何かというと「Energy Accumulating Vehicle」ずばり蓄電車、ということのようである。

 2両編成の烏山行きは数少ない乗客を載せて6時14分に宇都宮駅を発車した。宝積寺までは威風堂々たる東北本線を間借りして遠慮がちに走る。車内ディスプレイには電気の流れをリアルタイムで表示するディスプレイがあり、「パンタグラフから給電中」の表示になっている。つまりは普通に電車モードである。
 正式な起点である宝積寺駅で停車時間が8分あったのでホームに降りてみる。駅名票横の案内板には「建築家隈研吾氏のデザインにより建設された駅舎」とあり、どうしてこんなに隈研吾が繁殖しているのかなぁ、と思う。車内に戻ろうとした時に大きな稼働音がしたので見上げると、役目を終えたパンタグラフが降ろされたところであった。

 宝積寺駅を6時36分に発車した電車改め蓄電車は東北本線に別れを告げ、一気にローカル色を増した単線のレールを進んでいく。ディスプレイは「蓄電池の電力で走行しています」の表示に変わっている。鉄道を走らせるという素人目にも大量の電気を消費するであろう動力を蓄電池だけで賄えるのかしらんとも思ったが、現にちゃんと走っている。終点の烏山駅の折り返し待ち時間でも充電をしているのだそうで、そういう設備があって、なおかつ20キロ程度という路線距離だから成り立っているのだろう。
 列車はローカル線お馴染みの上客である高校生の乗降を重ねながら、何の変哲もない郊外風景を進んでいく。各駅のホームには七福神の絵があって、調べてみると「宝積寺」や「大金」という目出度い駅名があることから七福神を路線キャラクターにしているとのこと。もっとも大金駅があっても経営が楽になるはずもなく、国鉄最終年と比較すると乗降客数は半分弱に落ち込んでいる。県庁所在地直結でもあるし、こういう先駆的な蓄電車が走っていることからも廃線云々ということはなさそうだが。

 大黒天のイラストがデカデカと描かれた大金駅で路線の半分を過ぎ、10分ほど走って、毘沙門天が腕組みをして迎えてくれる終点烏山駅に定刻7時9分に着いた。一面一線だけのホームには車両上部にだけ架線があって、パンタグラフが上がっている。なるほどここで充電しているのかと納得する。
 無人駅で乗降客も僅かな駅舎は、簡素ながら三角屋根が地上からドンと空に伸びる結構スタイリッシュなデザインである。「だいすき! からせん」という大きな看板、「乗って残そう烏山線」という幟など、赤字ローカル線ではお馴染みとも言える光景を見ながら駅前に出てみる。ロータリーは広いが、見事なほどに商業施設も何もない。自家用車で送ってもらった高校生が時々駅に入っていく以外は時が止まったような風景であった。
 平日の僅かな時間を見ただけで何も判断できないのは承知しているが、これはやはり中々に烏山線の前途は苦しいぞという感想を抱きつつ、7時31分の折り返し列車で帰路に就く。烏山駅では片手で足りる程しかいなかった客はいつの間にか増えてきて、1時間後に着いた宇都宮駅ホームでは大量の通勤通学客が蓄電車改め電車から吐き出された。

 これで日光線と烏山線が完乗となり、関東地方の未乗線区はなくなった。気持ちはスッキリしたが、雨の方は相変わらずモヤモヤと降ったり止んだりを繰り返している。
 宇都宮からは9時4分発の『やまびこ127号』、仙台で『はやぶさ9号』に乗り継いで新青森まで一気に北上、の予定だったが、仙台が3分延着になり、しかもホームが離れていたので大荷物を背負って階段を走らされる破目となった。ようよう『はやぶさ9号』の待つホームに辿り着き、とりあえず近くのドアから乗り込んだら「グランクラスのお客様以外の車両通り抜けは出来ません」と微笑を湛えたアテンダントさんに通せんぼされ、発車ベルの鳴り響くホームをまた走らされるという仕打ちを受ける。
 息も絶え絶えな私を載せた『はやぶさ9号』は定刻に仙台を発車した。既に福島以北の東北新幹線未乗区間に突入しているが、トンネルばかりで景色は大して見えないし、そもそも新幹線ということで未乗区間を制覇している高揚感がいまひとつ湧いてこない。鉄道ファンに多いローカル線至上主義に陥っているのであろうか。

 11時51分新青森駅着、これで東北新幹線は完乗となった。新函館北斗駅までの北海道新幹線はまだ残っているが、それは後回しにして、今日はこれから奥羽本線で五所川原駅まで行き、日本最北の私鉄津軽鉄道に乗る。
 建物は立派だがまわりには何もない新青森駅をざっと回ってみる。ねぶたの模型やポスターなどが賑やかで青森に来たんだなと実感するが、それよりも印象に残ったのは改札にあった「大人の休日倶楽部パス、取り忘れ・取り間違いが増えています。パスは必ず出てきます!」というデカい字の掲示であった。

 新幹線改札からかなり離れた薄暗い在来線ホームに移動し、12時20分発の奥羽本線弘前行き鈍行に乗り込む。東北地方を中心に多く走っている701系電車の4両編成で、さすがに青森と弘前という県内2大都市を結ぶだけにかなり混んでいる。私は座ることを諦め、列車最後尾の位置を確保した。奥羽本線のこの区間は20年以上前に寝台特急『トワイライトエクスプレス』で通っていて、真夜中に大雪で1時間以上立ち往生したある意味想い出深いところである。
 大釈迦という有難い名前の駅を過ぎる。平安時代に鬼門封じの堂舎を建立し、釈迦像を安置したことに由来した駅名とのことで、私は信仰心は全くないのだが、遠ざかる駅に何となく手を合わた。

 12時49分川部駅着、ここで五能線に乗り換える。待っていたのはGV-E400系という新しい気動車で、ディーゼルエンジンそのもので走るのではなく、ディーゼルエンジンで発電した電力で走る電気式気動車、というものらしい。今朝の烏山線といい、最近は電車か気動車かという単純な分類には当てはまらない車両が増えてきている。水素で走るなんて代物も実用間近らしい。
 これぞローカル線ともいうべき五能線には少しミスマッチに見えるピカピカの気動車は、りんご畑の中の単線を縫うように進んでいく。岩木山とりんご畑、これぞ津軽という感がする。「ようこそりんごの里へ」という巨大な看板が目立つ板柳駅を過ぎて15分ほど走り、13時24分に五所川原駅に到着。跨線橋の向こう側の津軽鉄道ホームにはくすんだオレンジ色のディーゼルカーが止まっていた。

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