進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#25~関東圏集中旅(4)【木更津→上総亀山→木更津】
木更津は千葉県の中でも大きな市で栄えているイメージがあるが、木更津駅前は閑散を通り越して寂れている。早朝だからなのかとも思うが、昨日夜に歩いたホテルまでの商店街の寂れ方を見るとやはりそうなんだろうと思う。恐らく東京湾アクアラインからアウトレットあたりに中心地が移ってしまっていて、駅周辺は何とも言えぬ状況であるが、そんな心配は市役所と県庁に任せておくことにする。
2023年3月9日(木)6時25分発の上総亀山行き久留里線の各駅停車は長大編成の列車がバンバン発着する内房線ホームから離れた一番端っこのホームで甲高いディーゼルの音を響かせている。久留里線は今回乗り回し旅の一番の目玉で、それはほぼ首都圏近辺に位置しながら廃線危機に瀕していることに理由がある。
久留里線はもともと房総半島を縦断して太平洋側の外房線大原駅まで達する壮大な計画であったが、開通したのが昭和11年という時期だったからか真ん中の上総亀山駅で止まってしまい、太平洋戦争が始まると不要不急路線として休止という憂き目に会い、昭和22年に何とか復活するという波乱万丈な経緯を辿っている。途中の久留里まではそこそこの旅客需要があるが、久留里から終点上総亀山まではJR東日本管内の最赤字区間で、160万円の収入を稼ぐのに2億7600万円の経費が掛かっているらしい。そんなこんなの惨状なので、JRは「久留里~上総亀山間沿線地域の総合的な交通体系に関する議論の申し入れ」なるものを提示していて、日本語に翻訳すると要はもうバス転換でいいでしょというスタンスである。
それでもさすがにJR東日本と言おうか、発車を待っている2両編成の列車は国鉄時代の使い古した車両ではなく、E130系というまずまず新しい形式である。しかし東京近郊区間にも関わらずICカード乗車が不可で、やる気の無さは隠しおおせない。
10人ほどの客をパラパラと載せた列車は木更津駅を定刻に発車した。しばらくは並行する内房線に遠慮するようにおずおずと走り、右にカーブして内房線が見えなくなると解き放たれたようにエンジン音を上げていく。車窓は農地と住宅地が混在した平凡な風景で、申し訳ないが同じ房総半島を横断する小湊鉄道ほどの旅情は感じられない。小湊鉄道には終点近くに養老渓谷という観光地があるし、いすみ鉄道に乗り継いで太平洋側まで横断することも出来るのに比して、さしたる有名観光地もなく上総亀山で行き止まりでは活性化云々以前の問題なのかもしれない。
15分ほど走ると横田という駅に着き、上り列車との交換のためしばらく停車する。向かい側の木更津行きホームでは多くの通勤通学客が列車を待っている。この通勤通学客の需要で何とかなるのが久留里までで、その先は何をかいわんやなのだろう。
味のある木造駅舎と屋根のない青空ホームは私の好きな風景である。こういう駅には国鉄臭漂うキハ何とかの方が似合うよなぁと勝手なことを思っているうちに、ステンレス製のピカピカ光る車両は6時48分に横田駅を発車した。
横田駅を出てから久留里駅まで20分弱、あまり変わらない田舎風景の中をディーゼルは走り続ける。乗客はぽつぽつと減ってきて、もう5人くらいしかいない。何とかなりそうな久留里まででもこんな状況で、廃線論議が全線レベルに波及するのも時間の問題のような気がしてくる。
7時12分久留里駅到着。7分間の停車なので、ホームや駅舎を駆け足で見て回る。かつての貨物扱いの名残か、御多分に漏れず構内は今となっては無駄に広い。駅舎正面に掲げられている「久留里駅」の表示はいい感じに年季の入った木製看板だが、本当に年季が入っているのか、そういうエージング処理をしているのかは分からない。
久留里という面白い地名の由来は明確なものはないが、平安時代の武将がこの地で参詣したときに「久しくこの里に留まるべし」との御託宣があった、あるいは九州の久留米と同様に山間の平地を切り開いた土地を意味する、などの説があるらしい。いずれにしても京都出身のあの有名なバンドとは関係がない。というか、あのバンドの由来はここにはない、という方が正解か。
元々少なかった乗客は案の定みんな久留里で降りてしまい、そこからは2両編成の客は私だけとなってしまった。一日あたりの平均乗客数は木更津~久留里間が1,000人強なのに対し、久留里から先は50人くらいとのことで、私はその1/50になった訳である。
車窓は先程までの田園風景から一転して山岳路線の様相を呈してくる。深い渓谷や森の間をいくつかの急カーブやトンネルで抜けていくのは少なからず魅力があるが、路線の活性化に繋げるまでには程遠い。終点まで平山、上総松丘という2つの駅があるが、どう見ても終点までただ乗りに来た鉄道ファン1人だけを搭載したディーゼルカーは空しく、しかし律儀に発車・停車を繰り返し、7時37分に終点上総亀山駅に着いた。
駅構内や周辺には桜の木がたくさんあって、満開にはまだ早いがそれでも時の止まったような静かな駅を美しく彩っている。終着駅にポツンと止まっている列車と桜のコラボ写真などを撮って少しばかり悦に入った。
エンドレールや駅舎周りを見て回る。剥げかけた観光案内の看板には「県下最大の亀山ダム、亀山観音、ハイキングコース」などと書いてあるが、ダムファン以外にはあまり需要もなさそうだなと思った。
木更津へ戻る折り返し列車は16分後の出発で、さきほど私をここまで運搬してくれて、また木更津に返送してくれるであろう列車の運転士が所在無げに車両横に立っている。帰りもまたしばらくは彼との2人旅かと思っていたら、どこからか女子高生が一人と鉄道ファンっぽい兄ちゃんの姿が現れて、輸送密度はほんの少しだけ増えた。
恐らくもう二度と来ることはないだろう上総亀山駅を上り列車は7時52分に発車した。木更津か久留里までは乗るんだろうと思っていた女子高生は何もなさそうな平山駅で降りてしまい、車内は兄ちゃんとの鉄道ファン2人貸切となった。しかし久留里から先は朝8時台という時間帯もあってか、どんどん乗客が増え、立ち客も出るほどの混み具合になった9時前に木更津駅到着、往復2時間半の「東京から一番近い廃線候補の旅」は終わった。
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