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FMTの奏功に感じた希望と不安 [第8回学術大会より]

更新がかなり滞っていました。書きたいネタはたくさんあるのに、いざ文章にしようとすると筆が進まない。。
X(旧Twitter)の短文すら、書いて推敲して消す日々。
誰か俺に《文章が上手になる菌》を分けてくれ~~

そんな菌の最新情報を求めて、FMT(糞便微生物移植)のスペシャリストたちが集まる【腸内フローラ移植臨床研究会 第8回学術大会】に参加してきました。
本大会では、自閉スペクトラム症(ASD)の児童へ、「水素ナノバブル水を用いて調製した腸内細菌叢」を用いてFMTを施行する方法で臨床研究を行った結果が発表されました。


自閉スペクトラム症(ASD)へのFMTの効果に未来の希望

臨床研究の結果はとても素晴らしいものでした。

3. 本臨床研究の結果
30名のASDのお子さんを対象として、新規FMT法を施行いたしました。
その結果をASDの検査法であるSRS-2によって、FMT施行前後のASDの重症度の変化を評価しました。
その結果、FMT施行前においては、研究対象者30名のうち、28名が重度、1名が中等度、1名が正常域でした。FMT施行後24週目には、重度であった19名、及び中等度であった1名は、中度、軽度、及び正常域に移行しました。
即ち、新規FMT法によって、70%のASD児が、より軽症域に移行することが明らかになりました。

財経新聞記事より

FMTの目的はディスバイオシス(=腸内細菌の異常)を是正することで、
この研究から得られる知見は「ディスバイオシスを改善したらASDの症状が軽減した」ということです。

近年、世界的に増加傾向にあるASDですが、原因もまだ未解明で、故に治療法も未確立な状況のなかで、本研究の成果はとても大きなインパクトと希望を与えるかもしれません。

とても素晴らしい事ですね。

希望と同時に感じた不安

研究の成功に水を差すようで申し訳なさも感じるのですが、私は希望と同時に不安を感じています。

安全性についてではありません。(私自身も動物に実施して手ごたえを感じています)
それは、FMTが普及するまでに『世界がもつのか』ということです。

表現が大げさすぎるかもしれませんが、昨今の世相をみると多くの人が不安や怒りを感じながら過ごしているようで、資本主義社会の限界を感じているのは私だけではないでしょう。

ディスバイオシスは増えていく

産業革命以降、人類の増加が加速したのは周知のとおりで、その背景には食糧生産と保存の技術革新があります。
"病気に強い作物"や"腐らな食品"は多くの人を飢餓から救い、子供の死亡率が下がったことで世界人口が増えました。
飢餓に打ち勝ったことは人類の英知の功績でしょうし、私も今こうして成長できて生きている恩恵を受けています。

でもその影響で犠牲になっているものがいて、その一つが《菌》です。

腐らない食品とは、"菌が繁殖しない(できない)食品"で、それを食べる動物の腸内細菌にとっては発育を阻害される毒になります。
今や賞味期限が年単位の食品は当たり前ですが、そういった超加工食品の摂り過ぎは腸内細菌をいじめていることになります。

人口増加とディスバイオシスには相関関係のようです。

加速する除菌社会

加工食品だけではなく、20世紀半ばから後半には《抗生物質》が普及しました。今でこそ耐性菌が問題視されて、適正使用の声が優位になっていますが、私(40代)が子供の頃は『オレンジ色の甘いお薬』が風邪薬として気軽に処方されていましたね。抗生物質も"菌を弱らせる薬"です。
(※細菌感染では使わないと生命の危険もあり、医療になくてはならない薬でもあります。私も必要なら使います。必要ない時には使わない、です。)

ウイルスによる風邪に抗生剤は効きません😣

さらにコロナ禍以降、除菌文化が加速しています。アルコール消毒、塩素殺菌、抗菌シート、ゴム手袋etc.
人との接触も最低限になり、"環境から菌を受け取る機会"も激減しました。

腸内細菌を乱す原因については、ちひろ|微生物とシンバイオシスさんが分かりやすくまとめてくれていますのでぜひお読みください⇩

腸内細菌が乱れる日。いい方向へは変わりづらく、悪い方向へは変わりやすい。


私が感じた『世界がもつのか』という不安は、
菌にとって優しくない世界で、FMTで救えるASD患者は、その増加の前にして無勢ではなかろうかということです。

こぼれる水を掬う前に、蛇口を止めねばならないのですが、
菌を悪者とみなす傾向はまだまだ変わりそうもありません。

ドナーの数と人権問題

またFMTを成功させるにあたり、一番重要といっても間違いではない課題があり、それは【ドナー】です。
ASD患者だけの話ではなく、ディスバイオシスのある患者にとって「提供される菌が病状の改善に有用な菌かどうか」が治療の成否に関わります。

これは例えですが、痩せたい人に"やせ菌"がいないドナー便を移植しても効果は出ないでしょうということです(実際はそんな単純な話ではありませんが^^;)。

菌に優しくないこの世界では、ディスバイオシスの人の増加と反比例して、菌の多様性に富むドナー(=スーパードナー)は減少していきます。

ディスバイオシスの患者が少なく、スーパードナーが豊富な世界では患者を救うことは難しくありません。適合するまで試せばいつか当たる可能性は高いでしょう。

ドナーが少ないということは、適合するドナーが見つかる確率も減るということです。

また会場でお会いした方との会話の中で、はっと気づかされたのですが、
仮に多くの患者に適合するスーパードナーが見つかったとして、『そのスーパードナーには厳密な体調管理が求められる』ということ。
スーパードナーは、スーパードナーで在り続けることが求められるのです。

ちひろさんの記事の通り、腸内細菌を乱すのは簡単です。逆に良質な腸内細菌を維持するには節制が必要なのです。
メジャーリーガーの大谷翔平のように、目標のためなら厳しいトレーニングを楽しめる人は稀有ですし、ましてやそれが他人のためならさらにハードルは高いでしょう。

世界のために生活を管理されるドナーに人権はあるのか。。
想像するだけでディストピアですね。

ASDの増加抑制にFMTは間に合わない?

色々とネガティブな想像ばかりを膨らませてしまいましたが、それでもASDの改善に一縷の望みを得たことは本当に素晴らしい事ですし、多くの子供たちが安全にそして安心して受けられる治療に発展していくことを願うばかりです。

より多くの方がFMTを知って、希望を感じてもらうことが叶えば、菌に対するイメージも変わって、菌に優しい世界になるのでしょうね。

そしていずれは、FMTを受けずとも、環境から菌を受け取り、食生活で菌を育て、次の世代に菌を受け継ぐ、そんな世界がやってくるかもしれません。


きっとそこは人にも優しい世界です。


【追記】
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