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帰らずの森

君は何処


陽射しの中


探し求め


樹々の間を彷徨う


耳を澄ませ


声を辿る


目の回るような


深い森の


奥深く


その声は


僕の脳内に


直接語り掛ける


たすけて


たすけて


木漏れ日が穏やかな


こんな初夏の午後


知らない土地で


徘徊することになるとは





肌はびりびりと痺れ


痛みは全身に響く


苦悶の表情で


君を見つける為


僕は歩を進める


茨にシャツが破れ


切れた皮膚からは


得体の知れない虫が


這い出してきた



恐怖に怯え


叫んだその瞬間


君の声が


はっきりと聞こえた


その方向へ


鮮血に染まる袖に手をあてがい


よろめきつつ歩くと




随分と落差のある滝の上に


君はいた


その表情は


能面のように


無表情で


僕は戸惑った





声を掛けると


傷口が急に痛みだし


僕は膝を付く





能面の君は


此方を向き


僅かに微笑む




僕は確信する


君じゃない


僕の知る君は


一体何処へ





絶望の淵で


打ちひしがれる僕に


耳元で囁くひと


君の声


濡れそぼる髪の毛が


僕の肩にかかる














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