ウォーターサーバーのお兄さん
あれは4月。
自分が一人暮らしを始めてすぐぐらいのことだった。
その日は仕事が休みだったので服でも買いに行こうかと、近所のショッピングモールに行くと吹き抜けになったフロアの一角でウォーターサーバーの営業ブースが設けられていた。
自分はあまり興味がなかったため、そのまま通り過ぎようとしたが、販売員の一人である恰幅の良い兄ちゃんが「お兄さん、これあげる。」とポケットティッシュを快活な笑顔と共に10枚差し出してきた。
「あ、いいんすか。」といってそれを受け取ったが最後、「ウォーターサーバどっすか?」と営業をかけられた。
何の疑いもなくそれらを受け取ってしまった自分を反省した。
それだけ貰ったのに話を聞かないという選択肢は当時の自分には出来なかったのだ。
そのままブースの方へと案内され、首尾よく着席させられウォーターサーバーの案内を受けた。
「一日に一本ペットボトルを買うより断然安いですよ! それにすぐにお湯も使えるので沸かす必要性もないんですよねぇ!」
興味はなくても話を聞くうちに自然とお得なのではないかと思ってしまうのが不思議なものだ。
これがトークスキルというものなのだろう。
少し分けてほしいぐらいだ。
結局、優柔不断だった自分はその場で契約することなく一旦家に持ち帰ることにした。
そして、持ち帰った後で考えた。
アマゾンで水を箱買いする方が安く済むのでは……?
実際、そちらの方が安かった。
そんなこともあり、それ以後水を定期配送してもらう生活サイクルが根付いた。
何故、そのようなことを思い出したかというと、ウォーターサーバーの営業の電話が掛かってきたからだ。
もちろん、テキトーに断っている。
あの時の兄ちゃんには感謝している。
あの出来事がなかったら、「水を買う」という発想に至らなかったのだから。
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