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【全文】米・国家産業安全保障局(BIS)が2024年年次報告書を公表 経済安全保障の最前線での活動とは
国家安全保障と高度産業技術に関する問題を所掌する米国務省の国家産業安全保障局(BIS)輸出執行局は1月2日、過去1年間の活動成果をとりまとめた「2024年年次報告書」を公表した。
報告書は、BISがこれまでに中国やロシア、イランへの機密情報、物資、軍事レベル技術の移転に関する制裁、輸出管理違反、密輸陰謀など26件を刑事訴追したとしている。
2024年年次報告書
米国商務省
輸出執行局担当次官補
ワシントンD.C. 20230
輸出執行局の職員は、集団的国家安全保障を守るために懸命に働いています。ロシアの戦争機械の弱体化から中華人民共和国による先進的な米国技術の取得防止まで、我々の取り組みは敵対者にコストを課し、彼らの戦場能力を低下させています。
法執行パートナーとともに、我々は国家の最も機密性の高い技術を、世界で最も危険な者たちの手から守る最前線に立っています。
過去1年における国家安全保障の保護
1.「破壊的技術打撃部隊」を通じて具体的な成果を上げ続けた。この部隊は、ロシア、中国、イランなどの敵対的国家による米国の先進技術の不正取得と使用から保護する。具体的には次の通り
テキサス州、ジョージア州、ノースカロライナ州に新しい拠点を設け、打撃部隊の地理的範囲を14から17か所に拡大し、国防防諜・保安局(DCIS)を打撃部隊の法執行パートナーとして、BIS、DOJ(訳註:司法省)、FBI、HSI(訳註:移民・関税執行局)とともに追加しました。
中国やロシア、イランへの機密情報、物資、軍事レベル技術の移転に関連する制裁及び輸出管理違反、密輸共謀などで15件の刑事事件を提起し、打撃部隊設立(訳註:2023年2月)以来の合計は26件となりました。
「TE Connectivity」に対して、中国の軍事電子プログラムに関連する当事者への低レベル品目の無許可輸出について自主的な開示後、580万ドルの行政罰を科しました。
中国の量子能力を強化するための米国原産品目の取得または取得未遂により22の当事者をエンティティリストに指定しました。
2.司法省及び他の法執行パートナーとともに重要な国家安全保障上の脅威に対して効果的な執行措置を講じた
(1)ロシアの違法調達ネットワークを標的に
核兵器及び極超音速兵器の開発に使用される機密電子部品のロシアへの輸出で重要な役割を果たした被告の有罪答弁(訳註:罪状認否で有罪答弁をする代わりに減刑をもとめること)を得ました。
ロシアの防衛基盤向けの大量のマイクロエレクトロニクスの調達に関して、複数のロシア人を起訴し、ロシア系ドイツ国籍の1名をキプロスから引渡しを受けました。
ニューヨーク州の男性が、ロシア軍関連企業に米国製電子部品を出荷する違法調達スキームに関与したことについて、有罪答弁を得ました。
カナダ国籍、米国籍及びロシアとカナダの二重国籍者が、ロシアの制裁対象企業にドローンやミサイルシステムに使用される部品を送付した役割について、有罪答弁を得ました。
ロシアの軍事・情報機関に関連する制裁対象企業に数十万個の半導体を移転する共謀の容疑に関して、ロサンゼルスで被告を逮捕しました。
ニューヨークの企業に対して、電子機器製造に使用されるはんだ材料のロシアへの輸出に18万ドル減額した罰金を科しました。
カリフォルニアの企業に対して、共通高優先リスト(CHPL)品目を含むトランジスタ及び関連製品のロシアへの輸出に330万ドルの民事制裁金を科しました。
(2)中国やイランなどの国家への機密技術の送付に関与した者たちの責任を追求
中国のエンティティリスト掲載企業に半導体製造装置を違法輸出した中国人から、有罪答弁を得ました。
「Google」から人工知能関連の企業秘密を窃取した容疑で中国人を逮捕しました。
核ミサイル発射の探知や弾道ミサイル・極超音速ミサイルの追跡に米国が使用する企業秘密を、中国の利益のために窃取した容疑でカリフォルニアの男性を逮捕しました。
「GlobalFoundries」に対して、エンティティリスト掲載の中国企業に1,700万ドル相当の半導体ウエハーを出荷したことについて、50万ドル減額した罰金を科しました。
イスラム革命防衛隊(IRGC)及び国防軍需省関連のイラン企業に、米国製部品を密輸する共謀で4人の中国人を起訴しました。
イラン軍が運用するF-4戦闘機に使用可能な航空機部品を違法にイランに輸出した容疑で米国とイラン二重国籍者を逮捕しました。
IRGCへの物質的支援の提供及びIRGCの軍事用ドローン(うち1機が米軍人3名を殺害)に使用された機密技術を調達した容疑で、被告を逮捕しました。
(3)その他の重要な執行措置を実施
「USGoBuy LLC」という転送業者に対して、継続的な輸出管理違反及び過去のコンプライアンス不備への対応懈怠により3年間の輸出特権を剥奪しました。
2015年にエストニア市民を拷問し、イラクに武器部品を違法輸出したペンシルベニア州の男性に70年の懲役刑を宣告しました。
ニコラス・マドゥーロ・モロス(訳註:ベネゼエラ大統領)の利益のために所有されていた1,300万ドルのダッソー・ファルコン900EX航空機を差し押さえました。
制裁対象のイランの航空会社「マーハーン航空」が以前所有していたボーイング747貨物機を没収しました。
クーデター計画支援のため、南スーダンに数百万ドル相当のグレネードランチャー、スティンガーミサイルシステム、その他の規制品目を輸出した容疑で2名の被告を逮捕しました。
ハイチに銃器を密輸する共謀に関与した、悪名高いハイチのギャングの自称「キング」から有罪答弁を得ました。
1,900万以上のIPアドレスを感染させ、サイバー攻撃、輸出違反、数十億ドルの詐欺を助長した、おそらく世界最大のボットネットの撲滅に参加しました。
北朝鮮の軍事利用を目的として、銃器、弾薬、その他の軍事級装備を入手した容疑でオンタリオの男性を逮捕しました。
3.執行プログラムと政策をさらに強化
現行の実務と政策をより適切に反映するため、行政罰則ガイドラインと自主的開示(VSD)ガイドラインを改正しました。
BISで初めて企業法執行責任者を雇用し、企業調査の解決を促進するためBIS捜査官、BIS執行弁護士、DOJ検察官間の主要な連絡役として務めさせました。
商務スクリーニングシステムを確立し、完全に手作業だったプロセスを置き換え、すべての輸出許可申請について、外国企業の情報機関保有情報に対する自動スクリーニングを100%実施するようにしました。
4.ロシアへの高優先度デュアルユース品目の流れを減少させるための革新的な戦略を設計
史上初めて、住所をエンティティリストに掲載しました。香港とトルコの16の住所で、1億3,000万ドル以上の高優先度品目をロシアに転用した数百のペーパーカンパニーが入居していました。
転用リスクをもたらす外国当事者を特定する「レッドフラッグ」及び「サプライヤーリスト」レターを40通以上、米国企業に送付しました。
「レッドフラッグ」「サプライヤーリスト」及び「通知」の違いを概説する業界向けガイダンスを発行しました。
貿易公正性プロジェクトによって新たに利用可能となったオンラインリソースを使用して、ロシア向け高優先度品目の輸出者が取引当事者をスクリーニングすることを新たなベストプラクティスとして推奨しました。
5.省庁間、産業界、および外国政府との重要なパートナーシップを構築
外国政府の支援により、60カ国で1,440件以上のエンドユースチェックを完了しました。
輸出取引における貨物輸送業者の役割、責任及びベストプラクティスの概要を示す新しい貨物輸送業者向けガイダンスを発行しました。
一般禁止事項10を含む輸出管理規則の遵守に関するベストプラクティス推奨事項を含む金融機関向けガイダンスを公表しました。
「このようなことが起こらないように!」という犯罪及び行政事件の結果をまとめた要覧を更新しました。
司法省及び財務省と共同で、米国外の事業体の輸出管理義務に関する三機関合同勧告を公表しました。
フェニックス(アリゾナ州)で、法執行機関、産業界、学術界及びウクライナ政府のパートナーを含む会合を開催し、破壊的技術打撃部隊の一周年を祝いました。
G7と共同で、史上初めてロシアの輸出管理回避防止に関する共同ガイダンスを公表しました。
執行情報とベストプラクティスを交換するための日本及び韓国とのパートナーシップである破壊的技術保護ネットワークを正式に設立しました。
米国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国間の輸出執行協力を拡大するため、第2回年次輸出執行5カ国会議を主催しました。
法執行協力および情報共有を促進するため、オーストラリア、日本、韓国、スイスの各政府と個別の二国間協定を締結しました。
6.学術界の輸出コンプライアンス取り組みを支援するための新たなリソースを提供
50以上の大学を対象に、レッドフラッグの特定と基礎研究に関するウェビナーを開催しました。
2022年に設立された学術アウトリーチ・イニシアチブを29から40の大学に拡大しました。これは、学術機関が海外からの脅威から自身を守り、研究セキュリティを確保することを支援するものです。
学術機関向けの輸出コンプライアンスリソースの要覧を発行しました。
学術機関が提出したVSD(自己開示)の傾向を分析し、輸出コンプライアンスの取り組みの焦点を絞ることを支援しました。
7.ボイコット要請者リストの新設を含む反ボイコット執行の取り組みをさらに強化
米国人が受け取る可能性のある報告対象のボイコット関連要請をより良く特定できるよう、革新的なボイコット要請者リストを確立しました。
行動を変更し米国人へのボイコット要請を停止したことを証明した40社以上を要請者リストから削除しました。
トルコのイスラエルからの輸入停止発表に関連する勧告を公表しました。
反ボイコット違反の申し立てを解決するため、4社に対し総額約40万ドルの制裁金を科しました。
国家安全保障及び外交政策に反する行為を理由に、多数の当事者をエンティティリストに掲載することに成功しました。確立された省庁間プロセスを通じて、輸出執行局からの指名により、中国、ロシア、イラン、およびその他の国々から340以上の当事者がエンティティリストに追加されました。
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