イートインコーナーにて
コンビニのイートインコーナーで昼飯後のコーヒーを飲もうとカップ片手に入っていくと、女が椅子の上にあぐらをかいている、靴も履いたままで。
向かって左に1列4人程が座れるカウンター席、カウンターの1番奥席の右側に二人掛けのテーブルと椅子が独立してある。
女は左側カウンターの手前から3番目にあぐらをかいて座りじっとこちらを見るともなしに見ている。
なるべく「あぐらをかいているんですね、大丈夫です、勿論です」という顔を意識してしながら彼女の一人置いて一番奥の席に移動しようとすると、二人掛けのテーブル席に座っていた男が呼応するように不自然にカウンター奥席の椅子の方まで足を長々と伸ばすではないか。
退路を絶たれた私は必然、手前一番目カウンター席でパンとコーヒーを口に押し込む合いの手にスマホの動画に釘付けの男とあぐらをかく女の間に座るしかないのだった。
女はなぜかカウンター側に向かわず横向きに椅子の上にあぐらをかいているのだから、横からあぐらをかく見知らぬ女に注目されながらコーヒーを飲むことになる。
極力、あぐら近辺の事は気にしないようにコーヒーを飲みながらチラッと女を観察してみた。
①彼女はこちらを見ているのだがどうもその視線の意味など意図するものは特に無く、ただぼんやりと見ているだけ。
②免疫を高めるかもしれませんよ、というような趣旨の乳酸菌系のペットボトルの飲み物が前に置かれている。
③靴を履いたままのあぐらというおよそ楽ではない姿勢のはずだが、表情は穏やかというか「無」の境地という感じ。放心とも言ってもいい。
④ヨガの修行者。コンビニヨガという新しいジャンル
⑤不思議なことにこれを書いている今、女のおおよその年齢や容貌、服装などぼんやりして思い出せない。
⑥たしか、ショートカット。
➆たしか、全体的に黒っぽい印象。
このように、椅子の上にあぐらをかく女の見ている隣でコーヒーを飲むことはこの時一度ばかりだろうと丹念に味わいながらコンビニのコーヒーを啜り終わり、振り返りもせず午後の仕事に向かったのだった。あぐらをかく女をそこに残して。