大晦日とVORTEXと友人（世武日記はじめます）
なるべく大晦日を意識しないように生きている。大晦日なんて、突如現れ、それなりに悪い評判も耳にするハロウィンよりも好きになれない！と声に出さずに、でも滑舌良くなるべく全員に聞こえるように意識して、強めに念じる。
いつもそういうことをしているので、年がら年中、頭の中が忙しい。
さて、年末年始といえば劇伴音楽作家にとって書き入れ時なのだが、今季は思うところがあって仕事を全部断っていた。
時間を持て余した2023年最後の一日はギャスパー・ノエ監督の『VORTEX』を観に。まさに自分の生きた2023年、とりわけ12月を象徴するかのような作品だった。
夫が、認知症の妻に原稿を捨てられてしまうシーンがある。もし自分の書いた譜面を誰かに捨てられたらと思うとあまりに恐ろしく、絵に描いたように頭を抱えて声まで出てしまった。
何故人間は、大変な苦労をして誰かと一緒にいるのだろう。
映画の終盤、片方が亡くなってからの世界。あんな地獄絵図みたいな二人の生活だったのに、デュアルスクリーンに映し出される一人の世界があまりにも酷で、二人の時のがまだマシだったかも、と、まるで取り返しのつかないことをしたかのように落ち込んだ。なんだかちょっとわかりかけたが、やっぱり人間はよくわからなかった。
そんな複雑な気持ちを抱いて映画館を出たら、18時を回っていた。
先日、テレビ番組に出演した時にアナウンサーが紹介していた"お風呂場の壁にくっつく掃除用具"を買いたかったのだが、ニトリは18時で閉店だった。これだから大晦日というものは！
でも私は、大晦日を意識しないで生きている人間だ。普段通りにしていれば良い。
仕方なく自宅の最寄り駅まで素直に戻った。電車は空いていた。いつもより早い閉店時間を見越して、少し早足でスーパーに向かう。半額になったお寿司にありつけないかな、大晦日なんだしちょっといいもの（を安く）食べたいよね。大晦日なんて誰も寿司食わんだろ、みんな蕎麦だろ。
店内では「大晦日および元旦の、ファミリーおよび宴会を意識した、お寿司の特設売り場」が大展開されている上に、かなり品薄だった。なんやねん。
ダメ元で向かいの鮮魚コーナーを覗く。「これだから大晦日なんて嫌いなんだよ」モード全開の私であったが、"宴会用刺身の切れ端大特価1200円"の文字は見逃さなかった。サーモン、鯛、マグロ、ホタテまで入っているではないか。かなり頻繁に作っているポキ丼（おそらくこれから何度も触れることになるので、本日は割愛します）を、結構満腹クラスで4回は作れる。え、待って、大晦日大好きなんだけど！
値上げしてから滅多に買わなくなった卵まで買った。新年早々、生卵を載せた豪華なポキ丼を4回食べる。クオリティー・オブ・ライフ……（生まれて初めて使った）
物価高騰で値上げした柿ピーわさび味が久しぶりに100円台になっていたので、それもまとめて買った。らっきょうはケチって安い方にしたが、あの高いやつの方が絶対臭みがなくて美味しかったと思う。
帰宅して、さきほど買ったものと木綿豆腐（若布ふりかけをのせてごま油を少し垂らす）を食べる。それから、街の雰囲気に毒されて結局蕎麦を湯掻いた。ちょっと悔しい。
チャンネル登録してる平成フラミンゴさんが総集編をあげてくれていたので、それを観ながらあずきバーを。食部門、納まる。
2023年は「自分を知る」ことを特に意識して生きたと思う。その過程で、できることなら見たくないダサい自分とも向き合った。私はとにかく逃げることが嫌いで、うっかり逃げてしまった時には苦い顔でいそいそと戻り、「"逃げないバージョン"でやり直すチャンスを下さい。」と自分に頭を下げる。
見たくないものは見なかったとしても存在するし、自分が逃げた代償は他者が払っていたりする。
今回はとことんやったものだから沢山傷ついたが、前進した手応えもあった。
かなり近い関係性の人たちとの決別もあった。一方で大好きな友人との再会があり、久しぶりの対話は感動的な魂の交換だった。ちょっとした行き違いで少し疎遠になっていたが、やっぱり私はその友人が大好きで、その友人も私のことを気にかけてくれていた。時折二人して目にうっすら涙をみせながら成長譚を披露し、それぞれにハッとさせられていた。全てが眩しく思えた。別れ際には友情を噛み締め、どちらともなく強く肩を抱き合った。あの部屋に放たれていた光を、私はきっと一生忘れないだろう。
その友人が、死ぬこととは死ぬことなのではなく、むしろどう生きるかなのだと父親から教わったという話をしていた。そして映画『VORTEX』は「人生は、夢の中の夢」だと言う。
私は自然と、仕事でもなくTVerでもSNSでもなく自分のためだけに曲を書き、ピアノと同化して新年を迎えていた。一年の答え合わせのような大晦日から新年の幕開け。年末年始の仕事を断ったのはこのためだったのかもしれない。
まあ、大晦日なんてそもそも意識してないんですけどね。
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