この素晴らしき世界/セーブストロング編(3/16)
福岡県は糸島市にやってきた。羽田空港までの空港バスにて、隣の小さい女の子が「飛行機は大人は飛ばない?重いから!」と言っている。「じゃあ、君一人で飛行機乗る?泣いちゃうんじゃない?」ニヤニヤとそんなツッコミを入れそうになったが、お母さんがすかさず「大人も飛ぶよ。もっともっと重くても飛行機は全部飛ばせるよ」と言っていた。
飛行機は必ず通路側に座る。私は閉所がすごく苦手で、空の便となると必ず通路側に座りたい。満席の飛行機とのことで、万が一キャンセルが出たら通路側を案内頂けませんか?予約の時の確認不足だった私が悪かったですが...と客室乗務員(空港職員?)の方に伝えたところ、通路側の席を用意して下さった。「本当に、ありがとうございます!」深々と頭を下げる事しかできなかったが、これ以上ないくらい気持ちは込めた。好きな席に座りたい!みたいなワガママの領域ではなかったので本気で助かった。
普段は座席指定を必ず行うが、国内線のプロモーションチケットで空港にて座席指定だった。早めに行ったけれど、そもそも満席という想像をしていなかった詰めの甘さが敗因だ。次回からこのようなことがないようにしたい。
飛行機では、ストライプスーツ、裸足に革靴(先が尖っている)、パンチパーマに極めて近いヘアスタイルの強面紳士が隣だった。早く自分の席に行きたい人たちの冷たい視線に棒立ちで待機していたら、機材の入ったスーツケースを「(荷棚へ)あげましょうか?」と、人の列の隙間を縫ってヒョイっと持ち上げてくれた。先ほど深々と下げたばかりの頭を、また下げることとなった。
たった数秒の自分の損失(と思ってる時間)を杞憂してあからさまに不満げな表情で誰一人の作業も介入も許さない人も一定数いるが(車の運転中が最も顕著)、少しだけ人に何かを譲ることで失う自分の数秒と、譲り合えない人たちの積み重ねで全体が遅れることで失われる時間(出発の遅延)を考えるだけでも、譲り合いや助け合いの功績の大きさは明白だと私は考えている。他者の感情論を完全に無視することなく、しかし社会全体の流れにいる自分、という視点で生きていきたいものだ。
ところでさきほどの強面紳士は、着陸時、何も言わずヒョイっと私のスーツケースを先におろして下さった。飛行中に爆睡して朦朧とした表情だったが、「ありがとうございます!」と声量を更に大きくしてお礼をした。「こんな優しい人の顔は絶対忘れたくない」と思って数秒顔を凝視した後、すぐ後ろを歩きながらスーツの背中だけ盗撮した(私がクサクサした時に見返す用)。
ふと、強面紳士の合金ぽい艶々のスーツケースに目を留めたら"YOSSY"というネームシールが貼ってあった。「YOSSYさんの優しさ、本当に忘れませんから。」と背中に念を送り込んで地下鉄ホームへと急ぐ。
筑前前原駅に着いたら、明日ライブをやらせて頂く「いとの森の歯科室」オーナー原田さんが娘二人を連れて、車で迎えに来て下さった。メールでのやり取りばかりだった人が実像を持って目の前に現れる時、いつも不思議な気分になる。"この人のことは忘れたくないリスト"にこっそりしまい込んでいる相手を物質的に確認する時、寿命は少しばかり伸びる気がする。
しばし、あまりにも自分が接することのない世界観に突然放り込まれたような格好となり、少し面食らっていた。隠しきれない自分の人見知りと、飛行機での爆睡を引きずった地下鉄での読書も無関係ではないだろう。
原田さんのご家庭の様子を書くべき立場ではないので芯の捉えきれない文章になるかもしれないが、今日は触れないわけにはいかない。
「ケーキ屋さんに寄りたい!」と張り切る末っ子の顔の動かし方に、芸術的な嗅覚が反応して最初からピンときた(流石に自分が偉そうで笑う)が、一方、お姉ちゃんのバランサーっぷりにも感心した。いや、感心などと失礼なくらい、なんだか感服した。心臓が透けて見えて綺麗だなと思った。(文章にすると随分と気持ち悪いが、そうとしか言えないのでこのまま続ける)
しっかりとお母さんをサポートする(「サポートしてあげたい、だってお母さんが大好きだから!」という愛情をはらんだ)姿に、この子も好きだなぁと思った。
会場である歯科室に到着すると、長女が待っていた。三姉妹で家族内での役割が分かれていくのは何となく理解できるが、よくもこう三者三様に違うものだなと面白く思う。
私も長女なので少し分かる部分もあって、色んな気持ちを抱えながら長女としての矜持を持った姿に、本来的な甘えたい部分が同居していて気概がある。コッテリと独自の好みや主張があって、威勢の良い魚を見ている気持ちになった(いや、例えが最悪だろ!と思う方が万が一いたら、逆に鮮魚の美しさへのリスペクトが足りていないだけだと返したい)
原田さんには色々と気を遣って頂き、夜は皆んなでお寿司屋さんに行くことになった。ここでもそれぞれの個性大爆発な注文の仕方に面食らう(と共に笑う)。
三姉妹のことばかりに触れているが、原田さんの世界観もかなり興味深くて、折を見ては心の発見メモを活用した。
均整が取れる事ばかりにこだわる世の中が途端にバカらしくなり、好きに生きればいいじゃない。愛やで、愛!と、わたくしが音楽を担当させてもらった『カラオケ行こ!』のモモちゃん先生の言葉を思い出した。
夜、ひとりでピアノの近くにいたら、やっぱり弾かずにはいられなくて、唐突に即興ライブを行った。三姉妹がブレンドされたような音色がするなと感じたのは、私の記憶がピアノに同化したからだろうか。
私が寿司を堪能している頃、ソウルメイトが両国国技館でライブをしていた。「お互いぶっかまそうぜ!」と言い合いそれぞれの舞台に向かった我々。本当は、ライブ観たかったけど。
きっと最高のライブをぶちかました彼のバトンを受け取って、明日は私がかましてくるぜ!
会場にいらっしゃる方、大いにぶちかましましょう。
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