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新たな拠点で、新たな時間を|福島県(富岡町)タイム設定ワークショップレポート

「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づき、デジタルカウンターを使った作品で知られる現代美術家・宮島達男が、東日本大震災の犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承を願い、東北に生きる人々、そして東北に想いを寄せる人々と共につくりあげる「時の海 - 東北」プロジェクト
「9〜1」とカウントする3,000個のLEDガジェットが巨大なプールに設置される想定の作品は、3,000人の人々が関わり、LEDの数字のカウントするスピードを参加者それぞれが希望する時間に設定できるというもので、各地でワークショップを重ねながら参加者と出会い、2027年の作品完成を目標に活動を展開しています。
現在、参加者は2,567人となりました(2024年9月1日時点)。

本記事では、9月1日(日)に「時の海 - 東北」プロジェクト 有限会社宮島達男事務所 富岡町オフィス(以下、富岡町オフィス)で行われた、タイム設定ワークショップの様子をプロジェクトスタッフの西塚笑子がレポートします。
(執筆・撮影:西塚笑子|「時の海 - 東北」プロジェクトスタッフ)
(編集:嘉原妙|「時の海 -東北 」プロジェクトディレクター)


■新たな拠点「富岡町オフィス」ではじめてのタイム設定

2024年9月1日(日)、前日まで台風10号の影響により開催が危ぶまれましたが、当日は晴れ間も見え残暑を感じる朝でした。福島県富岡町でのタイム設定ワークショップは、昨年7月に引き続き、3回目の開催で、今年4月に開所した「時の海 - 東北」プロジェクト 有限会社宮島達男事務所 富岡町オフィスが今回の会場でした。

今回のワークショップでも、昨年富岡町で始まった参加者対話型の方法でタイム設定を開催。さらに今回は、これまでにタイム設定を行った方も参加できるよう「対話ワークショップ」の参加枠をはじめて設け、「時の海 - 東北」の作品制作を通した新たな対話の場の創出にもチャレンジしました。

ここからは、午前の部と午後の部の2部制で行った、タイム設定ワークショップの様子をフォトレポート形式でお送りします。

※写真は午前の部、午後の部それぞれ織り交ぜながら掲載しています
午前の部の参加者は、タイム設定の28名でした。
午後の部の参加者は、タイム設定:22名、対話ワークショップ:7名の合計29名でした。

デモンストレーション作品を鑑賞

富岡町オフィスでは、デモンストレーション作品を壁面に設置しています。まずは、作品について何も説明を行わず、ゆっくりと鑑賞していただきます。

集中して作品を鑑賞し、作品について考えることで、参加者のみなさんが自然と静かになるのが印象的でした。
一つひとつのLEDのスピードを見た時と作品全体を見た時で、どんな風に見えるでしょうか。
東日本大震災を知らない小さなお子様の姿も。

アイスブレイクで、参加者同士の交流

作品鑑賞の後は5つのグループに分かれ、自己紹介とデモンストレーション作品を見ての感想を共有します。顔見知りの人や初めましての人も一緒に、作品の第一印象や作品を鑑賞して何をイメージしたかなどを自由におしゃべりします。

モデレーターを中心に、参加者の交流の時間。
一人ひとり、作品の感想を共有。

宮島からこれまでの活動と作品についてのお話

現代美術家・宮島達男より、これまでの作品についての紹介や東日本大震災発生後に訪れた、福島県での経験を当時の写真と共に語られました。
参加者のみなさんも熱心に耳を傾けてくださっています。

タイム設定スタート

宮島の話の後は、いよいよタイム設定です。参加者は、0.2秒から120.0秒の間で思い入れのある秒数を自由に設定することができます。また、秒数に込めた想いやエピソードもワークシートに書いていただきます。

事前に秒数を決めてきた方や宮島の話を聞いてゆっくり考える方など、タイム設定の方法やリズムも様々です。
お子様とお話ししながら、タイム設定を行う参加者も。
最年少の0歳の参加者。タイム設定ワークショップは、年齢を問わずご参加いただけます。


■参加者同士の対話の時間

ワークシートへの記入が終わると再度グループで集まり、それぞれが決めた秒数とそれに込めた想いやエピソードの共有を行います。どのグループもお一人おひとりのお話に耳を傾け、語り手の想いやその経験に想像を巡らせていきます。この対話ワークショップでは、ご自身の決めた秒数や想いの共有は控えたいという方は、そのお気持ちを尊重しています。
今回も様々な想いを伺うことができました。

素敵なエピソードを聞き、自然と笑みもこぼれます。
ご家族揃って参加してくださった方と、宮島との対話の様子。
それぞれのワークシートを見せながら共有するグループも。
顔見知りの方も多く、穏やかな時間が流れていました。

全体での想いの共有

最後に各グループから代表して1名に、ご自身が決めた秒数とそれに込めた想いについて共有いただきました。エピソードからは、これまでに体験したことから感じた秒数や大切な人との思い出、記念日など様々です。

大切な方との思い出や東北に対する思いなど、お一人おひとりの想いを受け取る時間になりました。


■数字に込めた想いを聴く

今回、タイム設定に参加してくださった方のなかから、秒数に込めた想いをいくつかご紹介します。

112.7秒
3.11+ 8.16、東北と私、この土地の色におい、温度、鼓動を紡いできた人に、これから先 、 どこで息をしようとも東北がなければ、私はいません。

(2001年生まれ、女性)

40秒
岩手県大槌役場で津波の犠牲になった職員の数。生前会ったことのない人たちが遠複や生還職員の話を通し、昔からの友人のようにとても親しく感じる。

(1966年生まれ、男性)

13.5秒
 震災の時は大学生で 、今福島にいてこんなことをしていると思っていなかったので 、あの時から今までの時間13年5ヶ月を思って、13.5秒にしました。

(1991年生まれ、女性)

30.1秒
両親が震災時に乗っていた車のナンバー。自分の名前を意味していたという事実を知った時に、愛を感じたから。

(2003年生まれ、女性)

1.0秒
ここ3年毎年身体が不調になり、3回入院した。親から授かった生命を大切にし、残りの人生を1秒1秒(1歩1歩)しっかりと生きていきたいとの思いで設定しました。

(1960年生まれ、男性)


■ワークショップを終えて、記念撮影

ワークショップの最後は、参加者のみなさんとの記念撮影です。
午前は大学生の参加がとても多く、お話を聞くと浜通りエリアでインターンシップや大学の研究をしている方など、福島県内だけでなく全国各地から浜通りエリアに携わっている学生の方々でした。私自身も大学院の修士課程の研究を行いながら「時の海 - 東北」プロジェクトに携わっていることもあり、こうして多くの学生が浜通りエリアに携わっていることを知り、とても励みになりました。
午後の部は、様々な年代の方々にご参加いただき、東日本大震災を知らない小さなお子様も参加されていました。最後の記念撮影では「はい、チーズ!」という掛け声に合わせ、「ヤー!」とみなさんの元気な一声で記念撮影。午前、午後ともにとても充実した時間を過ごすことができました。

この町で育ち、これからを生きていく子供たちの未来へ紡いでいる時間のように感じました。そして、参加者のみなさんの大切な想いを受け取りながら、東北、福島がまた一歩一歩進んでいくような時間でした。

実は今回、授業の一環で「東日本大震災後に被災地の方々と協働されているアートプロジェクトについて調査」している東京藝術大学音楽環境創造科学部の1年生のみなさんも会場にお見えでした。「時の海 - 東北」プロジェクトに関するインタビュー取材と、タイム設定を行っていただき、午後のワークショップでは、運営サポートにもご協力いただきました。
タイム設定ワークショップへの参加、そして運営サポートに関わってくださったこと、改めて、ここに御礼申し上げます。


午前の部の参加者のみなさん
午後の部の参加者のみなさん


■おわりに:富岡町の人のあたたかさ

私は2022年から「時の海 - 東北」プロジェクトに携わっています。ちょうど2年前、インターンシップとして関わった「原美術館 ARC」でのワークショップの時にも、ワークショップレポートを執筆しました。その当時、1,516人だったタイム設定の参加者も、あれから1,000人以上増え、目標の3,000人に近づきつつあります。

今回の富岡町のワークショップで参加者のみなさんの物語を聴きながら、私は今はもう会えない大切な人のことを自然と思い出していました。福島の海が大好きな人でした。親戚が福島県いわき市に住んでいたこともあり、浜通りには小さい頃からその人とよく訪れていました。私が東日本大震災を経験したのは、小学3年生の時でした。震災後に訪れた時、よく遊んでいた小名浜の街が大きく変わっていくのを今でも覚えています。その頃から、大きくなったら何か福島に携わりたいという思いがありました。
その後、郡山市の短大に進み、再び浜通りを訪れることが増えました。そして現在、私はこの秋から富岡町と東京都の2拠点での生活を始めました。その人が大好きだった福島の海の近くで暮らしながら、今まで考えていた東北・福島にこうして関わることができ幸せです。富岡町で暮らし始めて、富岡町の人のあたたかさを日々感じています。

「時の海 - 東北」プロジェクトのタイム設定ワークショップの対話の時間や参加者の語りを共有する時間は、自分自身の物語を遡りながら、誰かの物語に触れる時間でもあります。こうした時間や一人ひとりの想いが、「時の海 - 東北」という作品に繋がっているのだと感じます。
作品が完成した時、きっと参加者は、ご自身の想いや他の参加者の大事な物語をきっと思い返されることだと思います。
「時の海 - 東北」プロジェクトは、富岡町という新たな拠点で、一歩ずつ作品完成に向け、これからさらに進んでいきます。

(text by 西塚笑子|「時の海 - 東北」プロジェクトスタッフ)

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