グレーゾーンの子どものための学習支援教室 学びのいろは の取り組み

●学びのいろはをはじめたきっかけ

グレーゾーンの子どものための学習支援教室 学びのいろは 
では、発達障がい、軽度知的障がい、不登校など
通常のクラスで うまく適応できない 
小中学生に対して 学習支援をしています。
https://manabinoiroha.net/

もともとは県立高校の教員でしたが、
夜間定時制高校に赴任したことが大きな転機となりました。

定時制とは、夜、授業があり、4年間で卒業する高校です。
元々は、昼間働いて、夜、学ぶという学生のためにつくられたものですが
現在は、高校を退学して、もう一度チャレンジしたい人や
経済的な理由で昼間の学校に通えない人、
低学力や集団になじめないタイプの人などが通っています。
中には発達障害や不登校等など 特性を持つ子供たちもいました。

私が赴任した当初、4年間頑張っても卒業後の進路はバイトのまま。
正社員、進学はゼロでした。
そこで、分からないなりに 当時いた先生たちとで勉強をし、
発達支援の観点を取り入れた改革に取り組んだところ、
50%だった退学率は5%に、0%だった進路は100%になりました。
進路先は 上場企業やその関連下請けの正社員はじめ、
調理師、理美容、看護といった専門学校、
有名私立大学や国立大学に現役合格する者もでました。

その結果、入学希望者が増え、これまで入学できていた
特性のある生徒が入学できにくくなってしまったことや
こういった取り組みが、高校からではなく、
小中学校からはじめたほうが、よりいいと感じ、
教師を辞め 10年ほど前から 今の活動に取り組んでいます。

学びのいろはでは、どのような子どもを見ているかというと
多くが、発達級と呼ばれるクラスに在籍している子どもたちです。

発達級の生徒は、中学卒業後、
サポート校と呼ばれる通信制高校か、特別支援学校の高等部に進学します。
定時制高校を選択する子もごくわずか、全日制高校は皆無です。
そんな彼らに対して、限られた選択肢の中から選ぶのではなく、
全日制高校を含めた進学支援を 学びのいろは では、行っています

そんな無理をさせて、高校を辞めてしまったら、逆効果では?と
思われたかもしれませんが、そんなことはありません。

実際、学びのいろは からは ここ数年、療育手帳や精神障害手帳を
持っている子どもが 何人も 毎年 全日制高校に進学し、
合理的配慮がなくても問題なく 高校生活を 過ごすことができており、
退学者はいません。
高校を卒業した生徒は就職や進学しており、
社会的不適応を起こしている生徒はいません。

なぜそんなことが可能なのか?と思われるかもしれません。
ちなみに学びのいろはでは、
IT教材や特殊な発達プログラムは行っていません。
行っているのは、国語や算数といった教科学習をしているだけです。
全て学校の教室で行えるものです。
教科指導だけを理由は、1つには通常のクラスに戻るということを目的としていること。
もう1つは、教科学習は、その学習過程の中に、発達支援的な要素が
すでに組み込まれているので、他のことを行う必要がないからなのです。

あえて、学校と異なる点を挙げるとすれば、
学校と同じ進度で 進んでいないという点です。
その代わり、基本を大切にし、枝葉の部分は大幅に削ずり、
高校受験までに間に合わせるというスタイルです。
何を基本とするか? それは、発達特性に応じて 子どもによって変えている 
という点も 学校とは異なるかもしれません。

もう一つ、ポイントを挙げるとすれば、一緒に勉強する仲間の存在です。
学びのいろはには 同じような特性や学力レベルの子どもと一緒に学べるので
できないことの負い目を感じることなく、集中して勉強できます。

よく、個別でないと難しいという人がいますが、私たちの感覚は逆です。
子どもは子どもたち同士の関りから一番学びます。
先生や大人がいくら「勉強しなさい」といってもやろうとしません。
個別指導では これと全く同じ状況になりやすいのです。
ところが、隣にいる子どもが なぜか 勉強をしていると、
ここでは勉強やらないといけないという 雰囲気を子ども自身が察知し
知らないうちに勉強しているという状況になっていきます。

学びのいろはに来ている生徒の中には、学校では席に座ることができず、
常に立ち歩いているという子も来ていますが、
学びのいろはで受講しているときにそういった姿を見たことがありません。
普通に座って授業を受けています。

生徒の感想でも、「ここに来たら集中できる」という声が一番多いです。

ここからは 過去に支援した K君の事例を紹介します。

●K君の話

K君は 幼稚園までは 普通(ふつう)に過ごしていましたが、
小学校から 発達級に入りました。

教室には生徒が たった5人しかおらず、
授業中でも 校庭に出て ブランコで遊んでいる子や
指定された席につかず、すきな絵本を読んでいる子
ずっーと泣いている子がおり、
授業らしいものを受けた記憶がない といいます。
また、学校全体の活動などに参加すると
「発達の子」と呼ばれることが多かったそうです。
友達はいませんでした。
発達級は自分には ぴったり合っていない とK君は感じていました。

K君が 学びのいろはに入塾したのは 5年生のときでした。
学力は、カタカタの 読み書きがきちんとできない 
繰り上がり繰り下がりの計算ができない
九九も完璧に覚えていない という状況でした。
学習障がい的な特性に加え、軽度な知的障がいを伴っていました。

文字が読み書きできない子どもにとって、文字は、
音楽の楽譜を見ているような感覚と同じです。
普通の人なら楽譜を見てもどんな曲が分かりません。
でも、ピアノやギターで音を出しながら練習すると
やがて楽譜が読めるようになってきます。

私たちが取り組んだことは、これと似ています。
筆ペンを使った書写や
カタカナで表記した俳句や和歌などの古典音読をとりくませました。
手を動かしたり、声に出したりする身体的な活動を通じて、
やがて文字がよめ、その意味も読み取れるように変化していくのです。

こういった基礎的な積み上げを繰り返したことで
K君は、中学3年生から通常級に異動することができました。
ちなみに発達級から通常級に異動できる割合は、
あまり知られていませんが約2%。
それだけでもかなりハードルが高いことなのです。
さらに、全日制高校を受験し、無事、合格することができました。

高校に入ってからのK君の人生は一変しました。
学習面は、十分とは言えませんが、なんとか頑張れています。
そして何よりも これまで 友達といえる存在がいなかったのに、
あっという間に たくさんの友達ができ、
今、高校生活を満喫しているとのことです。


●最後に

多様な生き方が 選べた方が いいと思います。
それが 持続可能な形になっていたら
もっといいと 思っています。

でも、多様性と持続性の両立は、
ちょっと難しい面があります。
それらが 地域の中で共存するには
なにかしら 折り合いをつける必要があります。
その折り合いをつける一つの手段が 学び ではないでしょうか。

学びとは、つながりのための、
のりしろを つくることだと思います。
のりしろが つくられていくことで、
生きることへのフィット感が得られていくのだと 思います。

私たちの活動は 小さな活動ですが、
必要としている子どもや家族のために
継続できるように これからも頑張っていきます。

※この記事は、
2021年12月9日 浜松市100人カイギ vol.01でお話した内容です

https://peatix.com/event/3081480/view?fbclid=IwAR2eL0A6wh51GmIJGVb4xsnMJ-slIelk4GMsbQPYFh5_ZOWdOOwW8OmsJfw


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