見出し画像

眼鏡の行方

「眼鏡がないっっ!」
あと1分で家を出発するはずの娘が、騒ぎ出した。

眼鏡がない。
幼稚園で弱視が見つかり、娘のトレードマークのようなピンクの眼鏡が、ない。

いつもなら、ある程度あちこち探すとみつかるのだがこの日に限っては見つからなかった。

中1になった娘の弱視はもう治っていて
今は乱視と遠視のためにかけている。
近視と違って、眼鏡をかけないと見えないわけではない。

眼鏡をかけたほうが疲れないらしいのだが
子供は目の調整力が強いのでかけても、かけなくても娘にとってはあまり変わらないようだ。

そのため、家では眼鏡を外してしまってることも多い。私と同じで適当にあちこちに置くため、
「あれ?眼鏡どこ?」になるわけだ。

「また?昨日どこに置いたの?」
「部活終わって帰ってきてから外した記憶がないから、お風呂の前だと思うんだけど」
いつもどおり、洗濯機の上に置いたらしいのだが、
そこにないのだ。

うちは、夜中に洗濯機をまわす。
脱水のときに結構揺れるのでそれで何か落ちることもある。その日はクシが落ちていた。

念のため、パパがライトを持って上から覗いてみたが何もおちてない。

洗濯機の上には、娘のいろんなものが置いてある。
カイロ、マスク、ヘアピン、ヘアゴム、
鏡などなど。あまりにも色々置くので
パパが百均でステンレスラックを買ってきて
それを洗濯機の上に置いて色々置いている。

「もう時間がないから諦めたら?学校では、眼鏡見つからなかったって、言うしかないよ」
娘は観念して中学校に向かった。

小学校の頃、プール教室に行く前に眼鏡が見つからなかったときは、パニックになって大泣きで喚いていた。眼鏡がない自分で人に何か言われるのが嫌でたまらなかったのだ。

成長したな。と思った。最近は「コンタクトにしたい」と言ったりしていたから、眼鏡を外してみるいい機会かなと思ったかもしれない。

娘を見送ったあと、私はありとあらゆるところを探した。洗濯機の上のいろんなモノたちを全て出して整理しながら元に戻した。洗濯機の裏側のスキマもパパが確認済だったが、念のため台に登って上から覗き込んでみた。

洗濯機の上に色んなモノが置いてある
上から覗いてもライトで照らしてもない

寝室の布団のスキマ、リビングでよく娘が座っている座椅子付近、コタツも一度外して
掃除をしながら探すが見つからない。

どこに行ったのか、まったくわからない。

学校から帰ってきた娘に、
「今日あちこち探し回ったけど見つからなかったよ」と伝えた。
「学校はどんな反応だった?」
「会う人、会う人にメガネどうしたの?って聞かれて、なくしましたー!って答えてたよ。生徒も先生も」
「メガネ外すと◯◯ちゃんに似てるらしくて間違われたりした。今日お団子していったから余計に似てたみたい。」
「よかったじゃん。◯◯ちゃんて可愛いって言ってた子でしょう。可愛い子に間違われて」
「はじめは、喜んでたんだけど、多分10人くらいに間違われたよ〜。もういいよー」

「明日からどうする?」
「もう眼鏡なしでいいかなー。見えるし」
「仕方ないよね〜とりあえずそのままで」

なんて会話をしてたのが水曜日。
水、木、金と眼鏡なしのまま登校して
まーなくてもいいか、なんて思いながらも
どこに行ったんだろうと気にかけていた。

娘も、なくても困らないが
会う人会う人に「まだ見つかってないの?」と
心配されるのが面倒らしい。

身体の成長に合わせて何度か買い替えた眼鏡だが、
娘は幼稚園の時からずっと
トマトグラッシーズのピンクの眼鏡にしていた。

あの眼鏡をかけている娘をもう見られないのか。
なんだか寂しくなってきた。

弱視と聴いていきなり眼鏡生活がはじまる事に、
ショックを受けた私。想像より意外とすんなりと生活に馴染んだ年中さんの娘。

成長と共にピンクの眼鏡はいた。
もし次に眼鏡を買うとしたら、
娘はピンクを選ばないと言っていた。

どうにかして見つけたい。
そして本日土曜日。

やっぱりお風呂前が1番怪しい気がする。
パパに頼んで洗濯機をなんとか傾けてもらった。
重いドラム式の洗濯機。水漏れ用に台をつけているため余計に見えにくい。

踏み台に乗って、なんとか上から見てみる。
やはり見つからない。
「真ん中あたりにあるとしたら、見えないね。
これ以上持ち上げるのは難しいし」と私
「横から覗けない?」とパパ

しゃがみこんで横から覗き込んでみる。
「あ!ある!あったよ」

1番死角になるあたりに、
娘のメガネはいた。

「ほら、洗濯機の上に置いたであってたでしょう」
という娘の声が聴こえてきそうだ。

よかった。まだピンクの眼鏡をかけた娘を見ることが出来る。

土曜日だけれど、娘は吹奏楽の練習で
学校に行っていた。まだ眼鏡が見つかったことは知らない。

パパが吹奏楽の親当番で、午後から学校に行くのでその時眼鏡を持っていくことにした。

「みんな眼鏡見つからないの気にかけてたから、
持っていったほうが盛り上がるんじゃない?」とパパ。

あと1時間で娘は眼鏡を手にする。
どんな表情をするんだろうか。
そして今後、眼鏡をかけるのだろうか。

頭の中であれこれ思い馳せながら
ピンクの眼鏡をケースにいれた。

いいなと思ったら応援しよう!