御恩と情け(タイムレンジャー42話)
未来戦隊タイムレンジャー第42話「破壊の堕天使」を見た。以下雑感。
「ありゃあ俺の失敗だったかもしれねェなあ」
ドルネロとギエンの過去が明らかになる今話。2990年、敵対組織に追われて大怪我をしたドルネロを助けたのがギエンであった。ただし、その姿は現在のような金色のボディではない。無邪気な笑みを浮かべる、ただの人間の青年である。
ギエン青年は、ただドルネロが怪我をしているから、というだけの理由で彼を自宅に連れ帰る。渡された紙幣3枚の「厄介賃」にも、「お金だ!」と喜んで数えはするものの、それ以上の執着は特に見せない。ちょっとした有名人であるはずのドルネロのことを、ギエンは全く知らない様子だ。皆みたいに殴らないからドルネロは怖くない、とあっけらかんと言ってのけるギエンに、ドルネロの方が却って面食らっているくらいである。
学校に行ったことが無くて、ちょっと子どもっぽいけれどシャボン玉が好きで、3より上の数が苦手なギエン青年。「4・4・4・4、1・2・3・4」。ドルネロに教えられた数字を嬉しそうに何度も繰り返すギエンは、ゆっくりと一歩ずつ、彼のペースで苦手を克服しようとしている。
だがある日、ドルネロを匿っていることがとうとう露呈してしまう。ドルネロの追っ手にひどい目にあわされて、息も絶え絶え帰宅するギエン。駆け寄るドルネロに、ギエンは少し誇らしげに言う。
「(ドルネロが)どこにいるか、誰にも言わなかったよ。ドルネロと、一緒に居たいから、さ――」
そしてドルネロは、瀕死のギエンを闇医者の元へ運び込む。札束をいくつも掴ませて、彼はギエンの治療と改造を依頼する。
友達に殴られる、と暢気に言うから、強く固い機械の体を。
3から上の数もすぐ覚えるけどね、と強がるから、知性溢れる電子頭脳を。
おそらくそれは、ドルネロなりの恩返しだったのだろう。自分の命を救ってくれたギエンの命を今度は自分が救い、与えてくれた穏やかな日々の礼としてギエンに欠けているものを与える。以前は「人間、金を数えられる知恵さえありゃあ十分だ」とは言ったものの、「ドルネロと一緒に居たい」とギエンが望むのであれば、それにふさわしい盾と矛、つまりは二度とこんな目に合わされないような力を与えてやらねばならない。
管を滴り落ちる赤い血が、手術室の床に水たまりを作っている。
人間らしさはすっかり取り去られ、ギエンは新たな姿かたちを手に入れた。目覚めたギエンは自らの身体に起きた変化を喜び、嬉しそうにシャボン玉を吹き始める。その様子にしみじみ「よかったなあ」と声をかけるドルネロだが、次の瞬間、彼はぎょっとしたように振り向く。
けたたましい笑い声をあげるギエンが、取りつかれたようにシャボン玉を割っている。綺麗だと、好きだと言っていた虹色の泡を、火花の散るような音を立てながらギエンは一掃していく。
「すべては私の思うままになる。私より賢いものがいるか? ……そうだな? ドルネロ」
闇医者の危惧していた電子頭脳の暴走は、あまりにも早くギエンの身に降りかかってしまった。念のために渡された解除キーを使えば、電子頭脳は機能を停止し、ギエンの頭を元に戻すことが出来る。3よりたくさんの数は苦手な、今まで通りのギエンに。
だが、ドルネロはその手段を取らなかった。否、取れなかったのだろう。ドルネロはギエンに対して良い事をしたつもりでいたし、確かにギエンは手術の結果を喜んでいた。もう誰にも殴られず、バカにもされない、強くて賢い新しいギエン。ドルネロの片腕として遜色ない能力の持ち主。それをすぐさま取り上げるのは、さすがに忍びない。
2000年のドルネロは、「俺の失敗だったかもしれねェ」と回想を締めくくる。すぐに解除キーを使わなかったことか、あるいはそもそもギエンに勝手に改造手術を施したこと自体か。傍にいるリラの贅沢好きは昔からちっとも変わらず筋金入りのようだが、しかしギエンがドルネロと一緒にいるためには、やはり人間のままでは難しかっただろう。シャボン玉のように儚い日々は、遅かれ早かれ破綻していたはずだ。
かつて昔馴染みのアーノルドKを解凍した際、ファミリーの険悪な雰囲気を感じ取ったドルネロは一策を講じた。アーノルドKの銃が暴発するよう細工を施し、それによってタイムレンジャーに彼を再び圧縮冷凍させたのだ。不満の募ったリラとギエンに殺されるくらいなら、逮捕された方がまだマシだろうというドルネロなりの情けである。
この度のギエンの暴走についても、第三者による脱走の手引きを察知したドルネロは、潔くタイムレンジャーへ通信を送る。虎の子の解除キーが手元にない以上、もはやドルネロに打てる手はこれしかない。ギエンがさらなる破壊を引き起こす前に、シオンに解除キーを複製させ、ギエンの電子頭脳をストップさせたうえで圧縮冷凍による保護下に置くのだ。これ以上ギエンが破壊衝動に魅入られないように――という、これも一つのドルネロの情けであろう。彼がただの冷血漢なら、ギエンの引き起こす騒動をビジネスに利用しない手は無い。
今回のトゥモローリサーチ
シオンの要望によりクリスマスパーティーを執り行うこととなった面々。ホナミを連れてくるというアイデアのおかげで、ドモンもかなり乗り気である。二人きりのデートもよいが、大切な仲間と大切な恋人を両手に抱えて楽しむ時間もまたよいものだ。ユウリやアヤセもはしゃぎ、竜也はポラロイドカメラで準備風景の写真を撮っている。
しかし、現像された写真を確認する前にタックがロンダースを感知し、一同は素早く現場に向かうことになる。出動の拍子に倒れたクリスマスツリーが不穏だ。そして、顧みられない写真は『ディケイド』の「ネガの世界」や『リバイス』の家族写真を連想させる。果たしてちゃんとみんなの姿は写っているのだろうか?
格闘の末、シオンがギエンに解除キーを差し込もうとした瞬間、横から邪魔をしてきたのはリュウヤ隊長である。竜也とリュウヤ、初の対面。すべてを見通しているような口ぶりのリュウヤ隊長だが、彼にとってはドルネロファミリーの逃亡も竜也の変身も(そしてタイムファイヤーの件も)すべて織り込み済みの歴史の一ページであったのだろうか?
……これは完全に妄想なのですが、あまりにもそっくりすぎるお顔立ちと圧縮冷凍技術の存在を考えた時、リュウヤ隊長は竜也の子孫とかではなく竜也本人なのではないか、などと思ってしまったりもする。自分の体験した「歴史」をあるがままに進行させるために、どこかの時点で自らを圧縮冷凍し、未来でそれを解凍したのではなかろうか。未来から過去への時間遡行は大事業だが、過去から未来へのタイムワープはそんなに難しい話ではない。ただ本人の時を止めて、任意の時点でそれを再びスタートさせればいいだけの話だ。
今回の滝沢直人
浅見会長の後継者などと持ち上げられ、若干まんざらでもなさそうな直人。竜也があっさり手放した地位と権力を、直人はいま実力でつかみ取ろうとしている。大学時代に出会ってから、竜也と直人はずっと互いの無い物ねだりをしていたのかもしれないなあと思う。
そんな直人だが、浅見会長が凶弾に倒れたとあってはさすがに動揺を隠せない。乞われて病院へ同道したはよいものの、駆け付けた浅見の妻には他人行儀な態度を取られ(夫の心配で頭がいっぱいならば当然と言えば当然)、詰めかける役員連中からは蚊帳の外に置かれて、直人はひとり手術室のランプを見つめる。そういえば、直人の家族はトラとサクラ以外に出てきていないなあ……。