自民党の農政改革を、農業現場から考える

自民党が「農林水産業骨太方針」をまとめました。いわゆる農業改革の取りまとめと言われるものです。

http://shinjiro.info/281125.pdf

大変ざっくりとポイントをまとめますと、

① コストを下げます

② 売り方を変えます

③ 人材を育てます

④ 輸出を促進させます

⑤ チェックオフ制度を検討します

という事になります。少し掘り下げますと、

①について

・主にランニングコスト、一部機械が対象

・資材の製造・流通を安価でやってね

・不要な資材は取捨選択しましょう★1

・特にJA全農が大きな役割を担っているから、組織の改革から考えてね(人材、手数料体系等)

②について

・農産物を直接販売するルートを作ります★2

・農産物の評価方法を変えます

・特にJA全農が大きな役割を担っているから、組織の改革から考えてね(流通企業への出資等)

③について

・現在の農大を専門職業大学に変えます★3

・雇用受け皿として農業法人を育てます

・新規就農者や女性を応援します

・ITやAIも導入していきます

④について

・PR活動進めます

・流通技術磨きます

・認証も見直します

⑤について

・チェックオフ制度検討します★4

というところです。まず一読した所感としては、確実に効果を出せるところから切り込んでいるという印象です。逆を言えば、抜本的な農業構造を変えていくものではないという印象です。例えば、生産資材の価格はどの程度改善出来るのか?50%?10%?など、KPIの設定がないのですが、10%くらいなら既存の業務工程等の改善などでなんとかなりそうな気がします。

基本的にはそんなに目新しい方針は見られず、既存の農政の延長線上にあるものがほとんどです。ただし、一部「★」をつけているところは興味深く映りました。

★1: 不要な資材の取捨選択

これは、何をもって必要か不要かという判断が、大変難しいと思われます。ユーザーが全然いない明らかに不要なもののみを取りあえず生産中止する事で、そのコストまで既存価格に乗っかってしまっている現状を打破するという事なのでしょうか。。そこで下げられる価格はたかがしれていると思います。

もし、現在一定数のユーザーがいる資材を捨てるという場合は、ユーザーの営農が根本から揺らぐ可能性があり、大変デリケートです。例えば、農業では肥料の種類を変えるだけで作付のパフォーマンスは大きく変わることがあります。その点のリスクを加味出来ているかは分かりませんでした。

むしろ、肥料の原料(単肥と言います)を諸外国から激安で仕入れてきて(硝酸カルシウム、第一リン酸カリウム、キレート鉄等)、生産者が単肥配合出来る技術指導をするほうが、コストは激減出来ると思います。但し、モル数計算等の化学的知識が必要になります。

★2: 農産物の直接販売ルート

もしこれを政府が本気でやるなら、ちょっと面白いかもと思いました。今の農業ベンチャーのうち、販売機能を担う会社さん(いわゆる八百屋2.0みたいな事業)と競合するという事になります。しかし、読み進めていくと既存の流通をうまく使うみたいに読めるので、こちらも生産者は既にやり始めている事、ということになります。

★3: 農大を職業専門大学に変える

一見、トンデモな政策に見えるかもしれませんが、農大を卒業した優秀な若者が、1次産業に就かないのは本当に機会損失です。農業に携わりたくないという根本原因を解決するのが先である事は重々承知していますが、未来の農業を担うエリート若者の育成は明らかに喫緊の課題です。

★4: チェックオフ制度

チェックオフ制度は絶対に止めたほうが良いと思います。。

そもそもチェックオフ制度とは、簡単に言うと「農家から一定額を強制徴収して、その金額を特定作目のマーケティング促進や技術研究に投資する」という制度です。海外では、日本と違って作物の種類ごとに強いマーケティング母体があります。米国ポテト協会などがその例です。しかし、日本はただでさえ「一番の産地」を巡って自治体や地域農協で争っている(非効率マーケティングをしている)現状なのに、チェックオフ制度を導入してその実態を解決出来る実感がまったく湧きません。農家のマーケティング自立を目指す方向性とは真逆を行くのでは??

以上、つらつらと書き記しましたが、個人的に最も重要だと思う事は、農業収支において大きなコストインパクトがある「収量」と「単価」を両立して向上出来る農業技術基盤の構築です。そのうえで、中期的にグローバルで技術優位に立てる為の基礎研究の推進です。特に植物の生命能力のメカニズムの解明と、それを誘導する為の仕組みの解明です。

この2点は先日、内閣府に僭越ながらご意見申し上げたところです。ご興味を持って頂き、引き続き会話の機会を頂けそうですので、小生が出来ることは全力でやってまいりたいと思います。

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