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一夜に十の夢を見る

夢の始まりというのは自覚がなくて、今までもずっと何かをしていた、という感覚だけがある。
記憶が残るのはある瞬間から後のことだけで、その前のことはあまり覚えていられない。
世界を構成する色が目まぐるしく変わる中で何かをしていたのだと思う。

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夜、とある洋館に閉じ込められている。
そこにいるのはわたしだけではなく、友達も見知らぬ人もいる。
広間にはすぐ外へ繋がる扉があるが、それはどういう訳か開かないのだった。

べっこう飴のようにしっとりと濡れた色の壁と床に、赤い絨毯が敷かれている。
丸い木のテーブルは焦げ茶色、重厚感があってアンティークのようだが、そこにいる人それぞれにテーブルがあって、各々食事をしていた。さながらディナーショーの会場のようだ。

洋館の中には小さな森があって、その中に湖がある。
ロココのように明るく軽やかにきらめく、ヴェールを纏ったような湖がある。

背中から透明な羽根を生やした少女が湖の上を跳ねていく。

この洋館でやがて事件が起きる。
わたしはここが、とある作品の舞台の中であると知っているようだ。


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自宅のリビングにいる。
そこにいるのはわたしだけではなく、友達も見知らぬ人もいる。
部屋はアクリル板の扉でいくつかに区切られていて、しっかりと閉められたアクリル板の仕切りの向こうにはミツバチが群れを作っている。
彼らはこちらを向いていて、群れとわたしの目はばっちりと合っていた。
今、この目の前の扉を開けたら、間違いなく彼らはこちらへやって来てわたしを刺すのだろうと思う。
わたしはアクリル板の扉を開けて、いつの間にか右手に持っていた殺虫スプレーをミツバチの群れに吹き付けた。
当然彼らはこちらへと向かってきた。

向かってきた1匹の蜂を左手の親指と人差し指で捉えると、親指がちくりと痛んだ。
ガラスを爪で引っ掻くような、耳障りな蜂の鳴き声を聞きながら、わたしは指で摘んだものを押し潰した。

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川沿いの遊歩道を歩いている。
隣には君がいる。
いつまでも君の夢を見てしまうことを苦く思いながら手を握った。表情が見れない。

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最悪な夢の話をしよう、とわたしは言った。

悪夢のひとつの定型は、追いかけられるものである、と。

夜のネオン街には青く光るタイルが道にも建築の壁にも敷きつめられていて、ぼわぼわと明るい。そこを走りながら、わたしは一緒に隣を駆けている相手に講釈を垂れていた。

曰く、この町の真上に広がる空はセンサーになっていて、わたしたちはどこにいても追手に気づかれてしまう。
曰く、この町中の青く光るタイルも同様にセンサーの役割を持っている。
曰く、街の中の建物は全て虚像の箱であり、屋内に逃げ込むことは出来ない。

追手に自分たちの居場所が筒抜けになっているのにもかかわらず、なお逃げ続けなければならない。
とはいえ、追手に捕らえられたとしても即ち死が訪れる訳でもない。これはただの鬼ごっこだ。
それでも、訳の分からない焦燥感に駆られて走り続けている、というこの状況が最も悪い夢なのだと。
わたしはそんなことを言いながら、走り続けていた。

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夜の遊園地に向かっている。
駅から入場ゲートへ向かうコンクリートの道は、駅へ帰っていく人で一杯で、わたしたちのようにこれから遊園地へ向かう人は他にいなかった。人の流れに逆らって歩く。
歩く人々は皆酩酊していて、わたしたちとすれ違った瞬間に膝から崩れ落ち、寝入ってしまう。
死屍累々、夜の渋谷はこうやって出来るんだなぁと考えながら、わたしたちは遊園地へと歩き続ける。

人の絨毯の先に、何人か、平然と遊園地へと向かう人たちがいる。彼らは登場人物である。

もうしばらく道を進んでいくと、明るい湖の畔に出た。きらめくヴェールが掛かったような、そんな湖。
わたしたちはその湖の上を跳ねることができるので、跳んだり、泳いだりしてその美しい湖での遊びを楽しんだ。

ふと来た方向を振り返ると、岸にはべっこう飴色の壁が出来ている。
まるでこの湖が館の中にあるかのようだ。
扉が閉じている。

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酒場にいる。暗い店内にろうそくの光がゆらめいている。
客がたくさん来たので、テーブルを動かして席をたくさん用意するのだという。
丸いテーブルをぎゅうぎゅうに詰めたら、身動きが取れなくなってしまった。

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目が覚める。
真昼の自室は明るく、人の気配がない。
家族はもうとっくに出かけてしまったようだ。
眠りすぎた。
ちょうど、授業が始まるチャイムの音が聞こえる。
遅刻は決定だけれど、とりあえず学校へ行く準備をしよう。
パジャマのままリビングに行くと、テーブルの上に書置きがあった。

「中学校の制服をクリーニングに出してしまったので、高校の制服で学校へ行ってください」

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目が覚める。眠りすぎた。
混乱した頭で今日の予定を思い浮かべる。
1限の講義へ出たあと、そのまま箱根へ向かう。
お昼のロマンスカーを予約してある、だから11時には新宿に。
講義が終わってから新宿にいけば間に合う算段だったが、今は自宅である。10時半。11時にはとても新宿に着けそうにない。
旅行の荷物も詰めていない。
何もかもが間に合わないし、もう何をすればいいかもわからない。
情けなくて心臓を掻きむしりたい。

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目が覚める。
もう起きなくてもいいだろうか。
今日は何曜日だっただろう。授業のある日か?
朝ごはんは食べられるだろうか。何か課題の提出を逃したような気がする。
部屋がオレンジ色だった。
どうやら昼寝をしていただけのよう。
キッチンから母が夕飯を作る音が聞こえる。

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目が覚めた。
5時にセットしていた目覚まし時計のアラームが、まだ暗い部屋の中に響いている。




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