春風の強く霞む

4/12

今日はバイト先の雇い主と2人でお出かけです!
とあるお蕎麦屋さんでお昼を食べたのち、野田の茂木本家美術館へ行くという計画を立てていただきました。
おそらく、受験を乗り越えた慰労会の意味も含まれているのでしょう。有難いことです。このバイト先がなかったら一体私は何をしていたのか、皆目見当もつきません。

お蕎麦屋さんが素敵なお店だということを前もってボスから伺っていましたが、予想以上にこだわりと趣のある装いでした。
まずお庭には、薄紅色のさつきが満開になって零れているようです。百日紅や紅葉、椿の木もあり、四季折々の様相が楽しめるのだということがわかります。藤棚は花が開き始めたというところでしたが、それもまたよし。数日後には芳しく先々の蕾までが咲き誇るのだと思います。
中に入れば、すぐに熊や狸や鳥や獣たちの剥製の数々がお出迎えしてくれます。旦那様が狩りをする方なのだそうです! マタギ…?
他にも獅子舞の頭が置かれていました。
店内もまた丁寧に装飾されていて、庭を見渡せる大きなガラス窓の1枚ごとに立派な焼き物が飾られていました。季節柄、兜もあります。天井を見上げれば、一部分の板に歌麿の美人画が彫られているようなのです。なんてことでしょう! お蕎麦を食べずともずっとここに居たいくらいです。

注文したのは「宝そば」というメニューで、ボスが前々から狙っていたものだといいます。山盛りの揚そばに野菜の餡をかけたものなのですが、下には海老天が仕込まれているとかで、以前ボスが1人で来たときには注文できなかったのだとか。要は、わたしは胃袋要員として呼ばれたわけでした。
運ばれてきた「宝そば」は噂に違わぬ大変なボリュームでした。山です。思わず笑ってしまいました。

一品では申し訳ないので、普通のもりそばも頼みました

とろろといくらが別添えであって、これは後半の味変のために使うものです。

揚げた蕎麦というのは初めてですが、中華麺の揚そばを食べたのが小学校の給食以来で、なかなか懐かしい心地です。わたしは餡に浸して麺をしならせて食べるのが好きです。蕎麦の風味がよく、味も美味しいですが、1人で食べ切れる気はしません。2人で(というか、ボスは4分の1くらいで離脱していましたが)ようやく食べ切りました。ご馳走様です。

ご飯のあとは茂木本家美術館へ向かいます。

向かう途中で、ナビに「香取大神宮」の文字を見つけ、寄ることにしました。
ここについては簡単に記したいと思いますが、流山街道沿いにあるためか、庚申塔や猿田彦命がありました。鳥居の前の御神木にぎょっとします。普通は境内にあるのでは…?
境内には拝殿と本殿があるようです。屋根に落ち葉が積もっています。右手に大きな石碑があり、戦没者を祀っているようです。
「大神宮」とは思えないほど、忘れられた場所のように寂しいのでした。
帰ってから調べてみているのですが、Google上ではその名前すらも見つけられていません。これはちょっと面白そうです。

さて、茂木本家美術館です。
浮世絵の「動物づくし展」を開催中とのことで、浮世絵を研究したいわたしの趣味に合わせてボスが提案してくださいました。
茂木本家美術館は、キッコーマン創設一家である茂木家のコレクションを公開しているところで、小さいながらも建築にこだわりの見られるミュージアムでした。
なんと、わたしたち以外の鑑賞者がおらず、貸切状態です。
最初に巡った庭園の奥にはお稲荷さんがあり、そこで「狐の嫁入り」を象った透かし彫りを見ることが出来ました。可愛らしいです。
一番驚いたことには、絵画の展示室に窓があったのでした。現代作家による作品の掛けられた部屋に、窓から取り込まれた日光が降り注いでいます。日光は作品を劣化させる大きな要因ですので、展示室には窓を作らないというのがミュージアムの基本とされています。しかし、私立であればこのようなことも可能なのでしょうか…。このような展示室を見る機会は貴重で、良い経験になりました。
浮世絵の展示室では流石に日光が遮断されていました。広重や芳年から吉田博まで、とにかく動物大集合の展示です。浮世絵における動物たちの表情というのは実にユニークで、人間らしさがあったり、可愛げがなかったりするところに愛嬌が感じられました。太田記念美術館でも猫の展示がされているそうなので、期間中に行きたいと思います。

美術館から歩いて、すぐ近くにある旧茂木佐邸へ行きます。
ここが大変に良かったのでした! 本日のクライマックスです。
「野田市市民会館」という名前でありながら実態はお屋敷そのもので、畳のお部屋がいくつもあり、そのひとつひとつに季節の飾り付けが施され、その全てを無料で、自由に回ることができました。タイミング良く、こちらもわたしたちだけが訪れていました。
お部屋から望むお庭もとても広く、松の木を始めとした植物が品良く植えられ、石や灯篭なども置かれ、今は水なき池があります。お茶室もあり、このお庭は造園史上の意義の深さから国の登録記念物となっています。
かつてはお屋敷に書院造の棟があったらしく、ぜひ見てみたかったです。
お屋敷の一室は事務室に改装され、図書閲覧室と兼ねられています。隣の郷土博物館の学芸員さんがお仕事をされている横で、民俗方面に充実した蔵書を見てきました。やはり醤油関係の書籍も多かったです。

ボスとのお出かけはこれでおしまいです。他愛ない話と生徒の話がほとんどだったので、行き先のことばかりになってしまいました。
そういえば、雑談の中で「つましい」と「つつましい」の違いを覚えました。あとは土地の話とか。

帰ってみたら疲労感に襲われて、20時半に就寝したところ、2時半に目が覚めてしまいました。きっかり6時間です。
おもむろに立ち上がって部屋のカーテンを開けると、南東の空低く、しかしくっきりと浮かんだ下弦の月の光が部屋を照らしました。
寝ぼけたまま20分ほど月光浴をして、夜が開けるまでもうひと眠りすることにします。

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