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>> プロローグ まだ寒さが残る初春 独立して念願であった自分の店を 開業して2年目 いつものように仕事を終えて 車で帰宅しようと 駐車場から出て裏道を走り始める もう薄暗く日も落ちかけていた その時 前を走っていた車の動きに違和感を感じた ゆっくり徐行スピードに落として 辺りに目を凝らす 道の真ん中に白っぽいものがうごめいている ビニール袋かと思って 通り過ぎようとしたとき ”茶虎の猫” だとわかった ぶつからないように 避けるのが精いっぱいだった 4本
目をひらくと ホクロ一つないなめらかな背部が 飛び込んできた 肩甲骨が綺麗に浮かび上がり 腰にかけて美しい逆三角形が フリーハンドで描かれている 薄暗いバスルームで シャワーを浴びる男性の身体を 生まれて初めて目にしたとき 「ダビデ像だ」 と感嘆の声をもらした日を 唐突に思い出した 毎日のように描き続けたダビデ像は 頭部しか馴染みはなかったけれど いつか全身をデッサンしてみたいと 当時の心が疼きだす たまらずその一番広い部分に左手を当てる 堅い筋肉を覆う一切無駄のな