寂しいからこそ金木犀
‘‘金木犀の香り’’
寂しくて切ない秋という季節を演出するのに一役買っているあの甘美な香り。
私はそんな金木犀の香りが大好きで、毎年花が咲くのを楽しみにしている。
今年も金木犀の花が咲き始めたようで、外を歩いているとフウワリと甘い香りが鼻を撫でた。
いい香り、だけれど今年は何処か物足りない感じがする。たしかにいい匂いではあるんだけれど少し期待外れのような、なにかがいつもとは違うような感覚がする……。
何故だろうか、しばらく考えて気がついた。
そうか、「寂しさ」が足りないんだ!
鬱陶しい程に暑かった夏が呆気なく去っていく寂しさ、
吹いてくる冷たい風に身体の熱が奪われていく寂しさ、
湿度の低いスッキリとした空気が隙間風のように心を刺して涙を誘ってくるような寂しさ……。
そんな「寂しさ」が今年はまだ足りていない。
10月にしては暑すぎる。
日中なんて余裕で半袖だし、仕事中は扇風機を回していてもしっとりと汗ばんでしまうくらいの陽気だ。
もう少したてば秋らしく涼しい風が吹くようになるんだろうか。
今年の秋は短く急に冷え込んで冬になるだろうなんていう天気予報を見ては残念に思う。
秋は寂しいから好きだ。
理由はなくとも寂しくなって切なくなって、別に悲しい訳でも辛い訳でもないのに泣いてみたくなる感覚。
そんな心地の良い寂しさに酔いしれるには、じわりじわりと染みるヒンヤリとした空気と短い時間で散ってしまう儚くて甘い金木犀の香りが不可欠なんだろう。