ぼくとカモメと、ちょっとチョウチンアンコウ 〜長編〜
24歳の頃に、未知を求めて旅に出た。その頃は夢や希望、不安や恐怖に揺られながら、それでも前に進んでいこうと決意していた。
バックパッカーとか旅人が多い理由って、人の本心とも言える”未知への欲求”なんじゃないかと思う。
でも、ぼくも含めそういう人たちは、未知を外側へ求めていた。
旅を続けていると、途中で自分が求めているものは外側にはないと気付く。
そうすると内側の探究が始まる。
内側の探究は何か中核みたいなものを深い深い海の中に潜って探しているよう。
その為にはたくさんの重りを外していかなきゃ深く潜れない。
そして、深く深く潜っていると何か温かい場所に着く。
そこは、一生そこにいたくなるような温かい場所。
ぼくは、そこがぼくの求めていた場所だと思って、この温かさを失わないと気を付けていた。
ただ何か違和感を感じる。
ここじゃないような気がする。
ここはとても居心地がいいが、あまりにも気まぐれで深い闇に覆われたり、サメが襲ってきたりする。
ただ大抵の時間は居心地がいいので、そこに留まっていたいと思うが、やっぱり違和感が拭いきれなかった。
ある日、この場所にチョウチンアンコウが訪ねてきて言った。
「ここは私たちの場所だから、もし居たいのなら、毎日私に小魚を渡しなさい。さもなければ、ここから出ていきなさい。」
めんどくさく思ったぼくは、そんなことするなら別の場所に行こうと、そこを離れて浮上することにした。
ぼくは核心を見つけることができなかったと悲しみ、それでも日の光を浴びたいと一心不乱に浮上した。
海の上へ浮上してみると、そこには太陽があり、青空があり、爽やかな風が吹いていた。
そこは下で体験したような温かい場所ではなかったが、何か清々しく、何かを求めていたのがバカバカしくなった。
そして、そこで海にプカプカ浮いていると、一つの疑問が浮かんできた。
「ぼくは誰?」
上には青空があるだけだったからか、自分というものが感じられなかった。
そして、そこに留まっていると何か内側から温かさを感じた。
「あぁ、この感覚はどこでも感じられるのか。」と気付いた。
その瞬間、自分が消えた。
さっきまでここにいたはずなのに、そこには何も無かった。
ただそこには海と空の境界線も無く、ぼくも無く、意識が無限に広がっていた。
そうやって海にプカプカ浮いていると、一羽のカモメがぼくのお腹に止まった。
カモメ
「何をしているの?」
ぼく
「何もしていないをしてるんだよ。」
カモメ
「何を言っているの?君は今海にプカプカ浮いてるじゃないか?君は誰?」
ぼく
「それならそれが答えさ。ぼくは海にプカプカういているだ。」
カモメ
「何言ってんの?なんか話せなさそうだから、ぼくは他の話し相手を探しに行くよ。」
そう言って、カモメは飛び去って行った。
それでもぼくはただ海にプカプカ浮いて、世界を観ていた。
そうしていると、急に一つの想念が浮かんできた。
それはこういうものだった。
ぼくは外側と内側、両方に未知を求めていたが、それは違った。
未知は川のようなものである。
未知を外側に求めていた時は、川を上流側に逆流しているような
感じだった。それに疲れ果て、今度は川の中を探した。
それでも見つからず、もういいやと半ば諦め、ただプカプカと川に浮いていた。
そうすると気付いた。
あぁ、この流れが未知なんだと。
ぼくはどうやって流されるのか分からない。
でもこの流れに乗っているととても心地良い。
リラックスして、この世界を楽しめる。
未知とは流れなんだ。
そしてこの川は海へと続いてる。
それを知っている。
それが”既知”なんだ。
そしてぼくはこの流れの事もこの川の事も
これから流れていく海の事も何も知らない。
これが”無知”なんだ。
わたしはこの流れであり、この川であり、これから流れていく海だった。
こういった想念や思考が流れていったが、ここに留まっていた。
それから、海を泳ぎ始め、陸に上がり、大地の砂の感触を噛み締めた。
「あぁ、この世界はなんと素晴らしいんだろう。」
という言葉さえも言う必要がないほど、世界は素晴らしかった。
そしてぼくは、この世界を堪能する為にまた歩き始めた。