「呪い」を背負うということ~プロセカ体験記②~
(*) 本稿はメインストーリー及びイベントストーリーのネタバレを含むため、視聴後に読むことをおすすめします。
はじめに
「25時、ナイトコードで。」(通称:ニーゴ)は、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(通称:プロセカ)に登場する正体不明の音楽サークルです。宵崎奏を中心に結成された4人は、「ナイトコード」というボイスチャットを通じて、楽曲の制作ならびに発表を行っています。
奏たちは互いの顔も名前も知らないまま活動をしていたのですが、ある日、まふゆと連絡が取れなくなってしまいます。物語が進むにつれて、まふゆだけでなく他のメンバーが抱える闇も明かされていきます。
本編を通じて浮かび上がってくるのは、様々な「呪い」と相対する少女たちの姿です。本稿では「呪い」という言葉に着目しながら、メインストーリーについて振り返っていきます。
彼女たちの抱える「呪い」とは
① 音楽に愛された少女 宵崎奏
奏が誰かを幸せにできる音楽を作るようになったのは、ある悲しい過去が関係しています。
奏の父親は作曲家として活動していたのですが、彼女が中学になると、彼の音楽は前時代的とされ、クライアントからも古臭いといわれていました。
思い悩む父を少しでも元気づけようと奏は自分が作った曲をプレゼントします。
しかし、その行動がかえって相手を追い詰めてしまいます。娘の才能に圧倒されながらも、父は「奏は・・・・・・すごいな」「きっと、音楽に愛されているんだ」といいました。そして、こう続けます。
仕事上のストレス等により、父親が倒れ、記憶障害を発症した後も、その言葉は奏にとって呪縛となりました。
一日の大半を作曲に費やすようになったのも、大切な人を不幸にしてしまった後悔や罪悪感を今も引きずっているからでしょう。奏の過去回を観る度に、僕は胸が苦しくなります。
物語終盤で、奏はまふゆが救われる日まで曲を作り続けると決意します。それはあの時と同じ悲劇を繰り返さないための選択であると同時に、劇中でもまふゆが言っていたように、「呪い」をもう一つ増やすことでもありました。たとえ自分のエゴだとしても、生きていてほしいという奏の願いが、まふゆの心に届いたのでしょう。セカイで交わした約束を胸に彼女たちは日常へと戻っていったのです。
② 彷徨する空虚な魂 朝比奈まふゆ
本編のキーパーソンであるまふゆは、メンバーの中で最も深い闇を抱えているといっていいでしょう。
彼女は将来看護師になりたいという夢を抱いていましたが、両親の勧めで医者の道を目指すことになります。
その選択は、周囲の期待に応えようという生来の実直さから来るものだったのでしょう。
学校では優等生として振る舞い、家庭でも「いい子」の仮面を被っている内に「自分」というものがわからなくなってしまいます(そりゃずっと本心を表に出さないままでいたら、空っぽにもなりますよね・・・)。
このまま消えてしまいたいと思ったまふゆは、自分の想いから生まれた「誰もいないセカイ」に逃げ込みます。無機質でひっそりとしたその場所は、彼女の空虚な内面が具現化されたかのようです。
奏たちの言葉にも耳を傾けず、まふゆは心のスキマを埋めるかのように、「OWN」(本編第3話で話題に上っていた匿名の歌手)として曲を作っていきます。
「OWN」には、「自分自身の」の他に「独自の、特有の」という意味も含まれています。この名前を付けたのもまた本当の想いを見つけたいというまふゆの本心の表れなのでしょう。
セカイに閉じこもっている間も、奏の曲を初めて聴いたときのような救われたという気持ちが、起きることはありませんでした。
絶望の底にあったまふゆが、それでも何とか思いとどまることができたのは、自分の「呪い」も一緒に背負うという奏の強い覚悟を感じ取ったからでしょう。1度拒絶されても、手を差し伸べる彼女の姿に光明を見いだしたのかもしれません。絵名や瑞希にも説得され、まふゆは現実世界に戻ることができたのです。
③ 己の「才能」に葛藤する絵描きの子 東雲絵名
イラスト担当の絵名は、有名な画家を父に持ち、自身も同じ道を目指していました。
しかし、目標の1つとしていた父親から「お前に、画家になれるほどの才能はない」(イベントストーリー『空白のキャンバスに描く私は』第2話の回想シーンより)といわれてしまいます。あまりにも残酷な事実を突きつけられた絵名が大きなショックを受けたことは、想像に難くありません。
その後、絵画教室での挫折、美術系高校の受験失敗を経験します。本編では直接描かれていませんが、一時は筆を折ることも考えていたと思います。「才能」という呪縛に捕らわれていた絵名が、今も絵を描き続けていられるのは、奏をはじめ自分を肯定してくれる存在がいたからでしょう。ニーゴの活動を通して、遠ざかっていた絵と再び向き合えたのは、彼女にとって僥倖だったのではないでしょうか。
前述のイベントストーリーをテーマにした楽曲『ノマド』(作詞作曲:バルーン)は、フランス語で「遊牧民、放浪者」を意味します。定住地を持たず、各地を転々とする彼らの生き方は、歌詞で表現されている複雑な感情を抱えて生きる僕たちだけでなく、もがきながらも前に進む絵名たちの姿とも重なります。
④ 「秘密」を抱えた自由人 暁山瑞希
グループ内ではムードメーカー的存在の瑞希はある「秘密」を抱えていました。クラスメートらはある程度事情を知っているようですが、それ故に好奇の目で見られることも少なくありません。自分が人とはちがうことに生きづらさを感じ、「本当にもう消えたほうが楽なんじゃないかな」とまで思っていました。その時期に聴いた奏の曲に自身の境遇を重ね、「もうちょっと頑張ってみよう」と立ち直ることができたのです。後にイベントストーリー『カーネーション・リコレクション』の第5話で、まふゆに響く曲を作れず思い悩む奏にそのことを打ち明けています。
ニーゴは奏が中心的役割を果たしているように見えますが、実は互いに支え合っている関係なのではないか、ということを示すエピソードがいくつかあります。
例えば、前述のイベストでは、奏が家族との思い出の場所を辿ることになるのですが、そのきっかけを作ったのが、瑞希です。互いの過去を話す過程で幼少期の記憶が甦り、奏は白いカーネーションを再びこの目で見ることができました。あの日の母親のように笑ってほしいという気持ちを込めた曲は、まふゆにある変化をもたらすのですが、それは次の章で記します。
本編で奏がまふゆと約束を交わしたように、あるいは絵名が「秘密」を話せるようになるまで待っていると瑞希にいった(ここのイベストは未視聴なので、何卒ご容赦を)ように、4人は時に互いの想いをぶつけ合いながら、関係を深めていきます。
これらのエピソードから、ニーゴのメンバーが各人にとって自身の苦悩を受け止めてくれる存在に変化していることを再確認しました。
おわりに ニーゴという「心の楽屋」
精神科医で作詞家のきたやまおさむさんは、自身の体験を交えながら、素顔の自分を出すことができる「心の楽屋」を見つける大切さを説いています(『中日新聞』2022年5月3日付朝刊22面)。
これを本編に当てはめて考えてみると、ニーゴというコミュニティが、とりわけまふゆにとって「心の楽屋」になりつつあるといえます。少なくともメンバーの前では優等生という仮面(ペルソナ)を被らなくていい。そう思えたことは、小さいようで大きな変化だったのではないでしょうか。
また、きたやまさんはこう語っています。
「ゆ」の感覚とまではいかないかもしれませんが、その後のイベントストーリーで少しずつではあるものの、まふゆの内面に変化の兆しが見られます。
中でも印象に残っているのが、「カーネーション・リコレクション」第8話でまふゆが微笑を浮かべるシーンです。僕はこの時、彼女が血の通った人間になりつつあることを実感しました。こちらとしては、本当の意味で救われる日がまふゆに訪れることを願わずにいられません。
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【プロセカ】楽曲『悔やむと書いてミライ』の楽曲詳細 - プロセカ攻略まとめ | GAMEΩ【最強攻略】ゲーマーのためのサイト (gameo.jp)
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