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バンズ・ヴィジットの世界は「たいしたことではなかった」のか
あなたは、聞いたことがないだろう。
たいしたことではなかった。
作品のキャッチフレーズが実際の作品と乖離している場合、観劇後に後味が悪くなります。
ただ、この作品は違った。
本当にそう。
たいしたことはない、一夜を明かすまでの物語。
それなのに、何かがおかしくて、何かが愛おしくて、ほろっと泣いてしまう。
正直なところ、付け加えたいワードはあります。
「個人的には“たいしたこと”があったけれど、世間一般からしてみたら、たいしたことではなかった」
と、いうように。
もともとは『迷子の警察音楽隊』という映画でした。
それがミュージカル化され、『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』として上演。
一見ブロードウェイらしからぬ作品かと思いますが、トニー賞10部門独占。
そして、今回が日本での初上演です。
私の言葉で簡単に言えば……
人と人が出会い、それぞれが少しずつ影響され、一夜明けてそれぞれに変化が訪れた群像劇。
でしょうか。
私が最初に観劇した際は空席もありましたが、一度観劇した私は「せめてもう一度観たい」と思い、リピートチケットで東京千穐楽のチケットを取りました。
そうしたら、話題が話題を呼び、日生の千穐楽は満員御礼!
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![](https://assets.st-note.com/img/1677204840963-b6StOzg26G.jpg?width=1200)
取っておいて良かった……。
この作品、未見の人にどう薦めたらいいか難しいんです。
私だって、なんとなく観ようかな〜と思って観たら、もう一度観たくなって、リピートしたくらい。
でも、バンズ・ヴィジットは、上演時間である105分を経た後、確実に自分の中で何かが変わるんです。
そんな、“ちょっとした変化”を味わいたい人に是非観てほしいんですよね。
東京公演終わってしまったので、大阪と愛知でチャンスがある方は是非。
ネタバレというか、公式以外の前情報を入れずに地方公演を観たい方は、目次で判断いただければと思います。
個人的には、ネタバレしてもしなくても、問題ないかな?と思います。
伏線がどうのというよりは、感覚で心が動いた作品なので。
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日生劇場で上演される意義
まず、この作品は物語も素晴らしいし、音楽や見せ方も素晴らしいんです。
あのスケールの物語を日生でやる意義は、観たら分かります。
私からすると、
音楽が主役
回り盆の演出
この2点が大きいと思います。
音楽が主役
まず、暗転前から流れてくる、異国情緒漂う音楽。
俳優が楽器に挑戦したり、逆に演奏者が演技をしたりしている部分もあります。
なんたって、“警察音楽隊”なので。
この音楽隊が、ペタ・ティクヴァではなく、本来行くはずではなかった、よく似た地名のベト・ハティクヴァへ辿り着き、そこで予想もしなかった交流が生まれていくわけです。
(地名の発音はめぐさんがめちゃくちゃ上手かった)
回り盆の演出
冒頭から終盤まで大活躍の回り盆。
これ、その土地に住む人々を少しずつ切り取っているという意味でも、よくできていると思うんです。
(誰の目線よ)
冒頭、盆が回り、柵で区切られた人々の「待ってる」様子を映し出す。
そこから物語が動いていくのですが……
終盤での盆の活躍は、後述しますね。
変わる人たちと変える人たち
めぐさんって、なんであんなにも自然に役として生きていられるんでしょうか。
大ナンバーを歌っても、「今から歌うぞ〜!」みたいな区切りなく、スッと入ってくる。
やはり憑依型なんだなぁ。
めぐさんのディナ、圧巻でした。
風間さんのトゥフィークは、そんなディナからの“受け”のお芝居が多い印象。
“変わっていく”人たちは、影響を“受ける”側なので。
新納さんは、現地でこの作品を観て、ブロードウェイの看板の下で「これやりたいです」って日本に電話したくらい、作品への思い入れがある。
そして、やるならカーレドがいいと。
やはり、その熱意は並じゃなかったです。
永田さん演じるパピとのやり取りも面白かったな。
my初日よりも、エリアンナさんをよく見つめてしまった千穐楽でした。
家族であるイツィクやアヴラムと、招かれた音楽隊のシモンとカマール。
この家庭の中で起きたあれこれを追っていたら、言葉にならない感情が溢れてしまった。
終盤、エリアンナさん演じるイリスが、泣き止んだ子どもの代わりとでもいうくらいに声をあげて泣いてしまった場面で、私までなんだか泣けてきちゃったんですよね。
こがけんさんなんて、彼女からの電話を「待ってる」だけのシーンばかりなんです。
でも、待ってるだけの役って、逆に大変だと思いません?
何かしたくなっちゃう。
だから、「電話壊れてる」からのくだりが面白いのだけど。笑
でも、終盤、ついに電話男が電話に出ます。
そこで、彼女と話しているであろう話を聞いて(字幕で見て)いるだけで、再びなんか泣けてきたんです。
終盤は、そのシーンから盆が回り始めるんですが……
そう、先ほど書いた「盆の演出」はここでも効いてくる。
これ、冒頭と同じような切り取り方をしているのではなくて、区切られた柵の中でも、人と人が出会ったことによって「それぞれこんな変化があったんだよ」って教えてくれている。
ただ単に回ることで“戻っている”わけではなくて、変化を経た状態で“還元されていく”印象を私は受けました。
その様子を噛み締めていたら、そこでぶわっときてしまったんです。
こんな感覚、初めてかも。
盆が回り、冒頭で楽隊が辿り着いたシーンと同じような構図になるラストシーンではありますが、気持ちとしては同じではない。
そこの“ちょっとした変化”を楽しんだり、感じたりすることができれば、刺さる作品なのかな。
私は初見で“ちょっとした気づき”を得て、2回目の観劇で確実に刺さりました。
終演後に抱いた気持ち
終演後に、
なんか心が動いたな
いいもん観たな
って思える作品。
笑いも涙も味わえる作品。
my初日よりも、千穐楽は客席の笑いの反応が大きかったし、私が涙したとき、同じようにすすり泣きが聞こえてきました。
my初日のときに、「もったいない」という気持ちもあったんです。
例えば、「エリアンナさんの歌唱あれだけ?!」とか、「そもそもキャスト豪華すぎん?!」とかね。
でも、それでいいんだと思いました。
この作品は、“それ以上”を欲してはいけない。
この作品だからこそ伝わる“何か”が必ずそこにある。
だから、こんなにも心が揺さぶられる。
千穐楽を観て、そんなことを考えていました。
千穐楽カーテンコール
千穐楽は、客席にお二人の特別なゲストが。
イスラエルより、映画『迷子の警察音楽隊』の脚本監督を務めた、エラン・コリリンさん。
ニューヨークより、その映画を、ミュージカルにしよう!として成し遂げた、ブロードウェイオリジナルプロデューサーの、オリン・ウルフさん。
新納さんが
"How was our BAND'VISIT?"
と尋ねたら、
"Perfect!"
と返ってきました。すてき!
新納さんがMC的な立ち回りだったのですが、「最後に主演のおふたりから一言頂いて」と、風間さんめぐさんをご紹介して、お二人が締めのご挨拶。
ただ、私、この時に「あれ?」と思ったんですよ。
この作品って、あの2人が主演なんだ……!
と。
これは語弊があるかもしれないけど、この作品、「主演?」って疑問符が出てきてしまうほど、全員にそれぞれ物語があるんですよね。
有名どころでいうと、レミゼみたいな感じでしょうか。
それこそ、ワンデイモアみたいな。
誰かが誰かに作用していく。
大きな事件は起きないけれど、壮大さも感じる。
レミゼみたいとは書いたけれど、ピタリな作品は思い浮かびません。
ミュージカルの可能性は無限大なんだな!
なんて、大きなことも思いつつ、締めたいと思います。
おまけ。
トニー賞のトロフィーなど。
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