科学雑誌を素人が読む[471]
先日手元に届いた『サイエンス』2021-10-01号に掲載された「循環型炭素経済による温室効果ガス排出量が実質ゼロのプラスチックを実現するために」(Achieving net-zero greenhouse gas emission plastics by a circular carbon economy)に目が止まる。〈実質ゼロ〉とはいさましい。
現在世界で使われているプラスチックの原料がまず化石燃料である。さらにプラスチックの製造過程で化石燃料を燃やしている。プラスチックを作れば作るほど二酸化炭素(CO₂)が大気中に放出されるということになり、ひいては地球温暖化につながるという背景がまずある。
今回の論文では、化石燃料がらみのプラスチックを作らない=温室効果ガスを排出しないためのロードマップを提示しているもよう。否、正確に言えば「作らない」のではない。「実質ゼロ」という表現はそういうことではない。実質ゼロとはつまり、系内にある注目する対象があって、その対象が増える局面があってもいいけど、他方でそれを減らす仕掛けも併せて用意しようということだろう。どこかで増えてもどこかで減らす=したがってプラスマイナスゼロ(実質ゼロ)。つまり化石燃料を使ってプラスチックを作るのはアリ、でもその製造過程で排出されるCO₂を削減する手立ても同時に講じておくべき、ということ。
手元にはようやく入手できた『地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる』(早川書房2021)という本もあって、ちびちびと読み始めている。この本の冒頭でも「大気中の温室効果ガスの排出量を実質ゼロ」にしようという宣言が出てくる。510億トンをゼロにしようという壮大な目標。
論文のほうは、プラスチック製品まわりのみについての「実質ゼロ」だからまだ穏当と言えるか。現実的とも。それでも未来の計画なわけで、関係各所の協力が得られて初めて実現への道に至るわけだから、その最初の提案の論文ということならば、読み手を「アゲ」る内容/文体で書かれているかもしれない(そうあるべきだ)。「フェルミ推定」(ざっくりした計算)もあちこちで行われているはず。上記の本とこの論文、併せ読んでいくのも一興か。■
[追記]
✅『地球の未来のため僕が決断したこと』というビル・ゲイツ氏による本についてはエントリ[286]と[272]でも軽く触れている。
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