Q氏の科学的日常

科学雑誌を読む日々(Scientific Days of Mr.Q)――自然世界のありよう/カラクリを知りたくて。 500回まで。

Q氏の科学的日常

科学雑誌を読む日々(Scientific Days of Mr.Q)――自然世界のありよう/カラクリを知りたくて。 500回まで。

最近の記事

科学雑誌を素人が読む[500]

『サイエンス』2021-11-05号の書評ページでは、意識の科学に関する新刊が紹介されている。神経科学者アントニオ・ダマシオ氏による『感じることと知ること――心に意識を宿らせるということ』(Feeling and Knowing: Making Minds Conscious)という本。まずは256頁という、このテーマの本については例外的な薄さに注目する。 脳科学/神経科学の教科書ではだいたい最後の章にラスボス的に登場する「意識の科学」は、究極の問いの風情を漂わせている。つ

    • 科学雑誌を素人が読む[499]

      『サイエンス』2021-10-22号の冊子が手元に届く。「健康な喫煙という神話」(The myth of healthy smoking)と題する書評記事で2冊の本が紹介されている。1冊目のタイトルは『「クール」を推す』(Pushing Cool)というもので、1970年代にタバコ業界がメンソール・タバコを黒人をターゲットに売り込んだ歴史を紐解いているようだ。「健康にいい」という欺瞞を背景に人種を標的としたマーケティングの歴史を扱った本のもよう。[出版社のサイト] 2冊目は

      • 科学雑誌を素人が読む[498]

        週刊科学雑誌『ネイチャー』2021-11-04号に掲載された論文のラインアップを眺める。全22本。掲載順序をシャッフルしたタイトルを並べてカード化した(日本語訳は『ネイチャー』 日本語ページから引用): 【ピックアップ】 ✅⑲体積電子顕微鏡での全細胞中の細胞小器官の区分け[論文]+⑳細胞全体と組織のオープンアクセス体積電子顕微鏡アトラス[論文]➣関連論文が2本。新しい画像化法を開発して生物の細胞や組織をナノスケールで観察した結果が報告されているもよう。⑲の要旨には「最大3

        • 科学雑誌を素人が読む[497]

          『ネイチャー』のホームページを眺める。書評のページが冊子版に掲載される前にウェブ上に掲載されている。紹介されている『アントロポコスモスへ』(Into the Anthropocosmos)という本に注目する。〈アントロポコスモス〉とは何か?――初めて耳にする。〈anthropo...〉という接頭辞は「人類」を指すことは知っていた。「anthropocene」(人新世、アントロポセン)という語は最近よく耳にする。後半の〈cosmos〉は「宇宙」を意味するから、「人類が宇宙に進出

          科学雑誌を素人が読む[496]

          『サイエンス』2021-11-05号の目次が公開された。表紙は火星の最新写真。コピーは「MARTIAN DELTA」(火星のデルタ)――「デルタ」というのはギリシア語Δに由来して、たとえば「三角州」を意味する。デルタ地帯という言葉を聞いたことがある。ゆえに水H₂Oとの関係が連想される。確かにサブコピーには「Perseverance rover investigates ancient hydrrology」とあり「探査機パーサヴィアランスによる古代の水の流れの調査」とズバリ水

          科学雑誌を素人が読む[496]

          科学雑誌を素人が読む[495]

          『ネイチャー』2021-11-04号の目次が公開された。カバーストーリーは、「クジラのエサの量を測る」という生態学の研究。エサとは「オキアミ」(krill)――小さな甲殻類だとか(エビに似ている)。 論文のタイトルは「高分解能の採餌測定に基づくヒゲクジラの餌消費量」。〈高分解能〉ときた!(期待させる)。クジラは大海を長距離にわたって泳いでいるわけで、どうやってその食生活に迫るのだろうか? という疑問がまず浮かぶ。さいわい解説記事「クジラの旺盛な食欲」のPDFは非定期購読者で

          科学雑誌を素人が読む[495]

          科学雑誌を素人が読む[494]

          科学誌に掲載された科学書の書評には必ず目を通す。『ネイチャー』2021-10-28号の書評ページでは「生命の歴史」系の本が紹介されている。このテのノンフィクションはおりおりに刊行される印象がある。ゆえに、生命体が現れてからホモ・サピエンスに至る46億年の歴史をいかに魅力的に描いているかというサイエンス・ライティングの文体こそ読みどころと考える。 紹介されているのは、『地球上の生命の(極めて)短い歴史』(A (Very) Short History of Life on Ea

          科学雑誌を素人が読む[494]

          科学雑誌を素人が読む[493]

          米国先住民(アメリカン・インディアン)が受けた強制移住の歴史に関する論文が『サイエンス』2021-10-29号に掲載されている。科学は科学でも社会科学の研究。この雑誌は「アメリカ科学振興協会(AAAS)」の機関誌でもあるからこういう論文も掲載されるのだろう。 論文のタイトルは「北米先住民に土地収用および強制移住が与えた影響」。まずは解説記事「先住民族の強制移住を記述する」を読んでみる。 人々の「移動の歴史」と聞いて、ゲノム塩基配列を読み取って比較を行ったりしたのか? と思

          科学雑誌を素人が読む[493]

          科学雑誌を素人が読む[492]

          先週手許に届いた『サイエンス』2021-10-15号の冊子をパラパラとめくっていく。後半に「分娩室でのヒューリスティクス」(Heuristics in the delivery room)というタイトルの論文が掲載されている。 タイトルに使われている単語数も少ないのもスッキリしていて注目されるけれど、それ以外にこの論文について特筆すべきは著者が一人であるということ。最近ではなかなかめずらしいのではないか。たいていの科学論文(原著論文)は複数の著者によって書かれる。つまり、論

          科学雑誌を素人が読む[492]

          科学雑誌を素人が読む[491]

          週刊科学雑誌『ネイチャー』2021-10-28号に掲載された論文のラインアップを眺める。全21本。掲載順序をシャッフルしたタイトルを並べてカード化した(訳は『ネイチャー』 日本語ページから引用): 【ピックアップ】 ✅⑥世界の太陽光発電ユニットのインベントリー[論文]+⑦太陽エネルギーを用いて大気から飲料水を得る世界的な潜在能力[論文]➣太陽エネルギー関連の論文が2本掲載されている。⑥は、地球上に現在いったい何枚のソーラーパネルが設置されているのか数えてみたという趣旨の調査

          科学雑誌を素人が読む[491]

          科学雑誌を素人が読む[490]

          『ネイチャー』には「私の仕事場」(Where I Work)と題する、研究者が自らの研究について、研究環境の中に収まった写真付きで一人称で語るページがある。1ページもので、プロテクトもかかっていないことから、多くの読者に読んでもらいたい企画なのだろう。 研究者は自らの研究の価値を一般の人たちにいかに語りうるのだろう? という興味からいろいろ学びがある。小難しい専門的な話は最低限――というかページ面の半分が写真なので、必然的にテクストの文字数は限られる。使われている英語も平易

          科学雑誌を素人が読む[490]

          科学雑誌を素人が読む[489]

          科学誌『サイエンス』は毎週金曜日に更新される。朝起きてデスクに向かい、PCを立ち上げてホームページを訪れると最新号の目次が公開されている。ざっと目次を眺めて興味深そうなテクストを探す、というのが金曜日の朝のルーティンだ。 今朝公開された2021-10-29号は「眠り」(Sleep)の特集号であり、それはそれで興味深いのだけれど、まずは解説記事のページへと向かう。 トップに掲載されている記事は「ストレスを受けた細胞をクリアにする」(Clearing stressed cel

          科学雑誌を素人が読む[489]

          科学雑誌を素人が読む[488]

          『ネイチャー』2021-10-28号の目次が公開された。解説記事のページを見ていく。5本のジャンルはそれぞれ〈エネルギーインフラ〉〈神経科学〉〈免疫療法〉〈物性物理学〉〈生理学〉。それぞれに対応する具体的なモノをみていくと「ソーラーパネル」「オピオイドペプチド」「腫瘍細胞」「絶縁体」「鍼」となる。 もっとも興味を惹かれるのは、最後の「生理学―鍼」のはなし。マウスを対象に、電気鍼で特定のニューロンを刺激して抗炎症効果をみたという。言い換えると、鍼治療はなぜ効くか?――という往

          科学雑誌を素人が読む[488]

          科学雑誌を素人が読む[487]

          『ネイチャー』のホームページを眺めていたら「世界中の研究論文を網羅する巨大かつ無料で利用できるインデックスをオンラインで公開」(Giant, free index to world's research papers released online)というニュース記事に遭遇した。科学と言葉に関心を寄せる者としては大いに興味をそそられる。 どういうプロジェクトかというと、検索ウィンドウに調べたいフレーズ(英語)を打ち込むと、そのフレーズを含む科学系の文献(論文および書籍) 、

          科学雑誌を素人が読む[487]

          科学雑誌を素人が読む[486]

          「モノが浮くことの」科学―― 『サイエンス』2021-10-08号には、総説論文「浮揚系力学――真空中における微小物体の浮上と制御」(Levitodynamics: Levitation and control of microscopic objects in vacuum)が掲載されてる。〈Levitodynamics〉というのは未だ確立途上にある学問ジャンルとみた(検索してもあまりヒットしない)。「levitation」という語が「空中浮揚/浮遊」といった意味なので「

          科学雑誌を素人が読む[486]

          科学雑誌を素人が読む[485]

          『サイエンス』2021-10-21号の書評ページでは、鳥の進化に関する新刊が紹介されている。鳥類進化を説明する決定版と謳われているようだ。鳥好きとして大いに気になる。 タイトルは『鳥類はいかに進化するか』(How Birds Evolve)――現在形には何か含みがあるのだろうか? 副題は「科学が解き明かす鳥類の起源、生活、そして多様性」(What Science Reveals about Their Origin, Lives, and Diversity)。著者は著名な

          科学雑誌を素人が読む[485]