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科学雑誌を素人が読む[489]

科学誌『サイエンス』は毎週金曜日に更新される。朝起きてデスクに向かい、PCを立ち上げてホームページを訪れると最新号の目次が公開されている。ざっと目次をながめて興味深そうなテクストを探す、というのが金曜日の朝のルーティンだ。

今朝公開された2021-10-29号は「眠り」(Sleep)の特集号であり、それはそれで興味深いのだけれど、まずは解説記事のページへと向かう。

トップに掲載されている記事は「ストレスを受けた細胞をクリアにする」(Clearing stressed cells)というタイトル。〈クリアにする〉というのは「透明にする」ということではなくて「排除/除去する」ということ。つまストレスを受けた細胞を丸ごと捨ててしまうというメカニズムに関する報告。興味深い。というのも、ストレスを受けたからといって完全に異常をきたしたわけではない細胞を、予防的に体内から除去するというのはずいぶんとエネルギー的に大盤振る舞いのように感じられるから。

こんな一文に遭遇する:

しかし、p21によって誘発されたストレスが手に負えなくなると、修復タイマーが切れ、免疫細胞は監視からクリアランスモードに移行した。*¹

そうか、「不調を直そうとする」修復メカニズムもそなわってはいるのか。そしてそこにタイマー、すなわち時間を測る仕掛けが組み込まれているのは面白い。体内時計とリンクしているのかもしれない。そして時間切れにともなって〈クリアランスモード〉へ、すなわちダメージを受けた細胞を丸ごと捨て去る方向へと進むことになる。生き物というのはミクロにみると何と精妙せいみょうな仕掛けが働いていることかと改めて驚く。

少し考える。上で「エネルギー的に大盤振る舞い」と表現したけれど、それは状況を観察している者からの視点なわけであって、「壊れたもの(たとえば機械とか)は修理するべき」という社会規範のようなココロがこちらの思考パターンにあることに気づく。細胞世界を考察する際にはもっとクールな視角が必要なのだ。

大量に作って(この場合は細胞)、不調を少しでも来したものは、(悪さをする前に)どんどん場から退場を願う、というのが生命世界のルールの一つなのかもしれない。細胞死(アポトーシス)の仕掛けに至っては、傷んだ細胞が自爆するというものなわけだし、とにかくイキのいいパーツを残すように代謝をグルグル回すというのがミクロの世界の生命現象のかなめなのかもしれないな。もう少しこの記事、もう少し深く読む。細胞を取り巻くメカニズムのネットワークに想いをせてみる。■


【追記】

✅*¹[原文]However, if the p21-induced stress was unmanageable, the repair timer expired, and the immune cells transitioned from surveillance to clearance mode.

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