科学雑誌を素人が読む[500]
『サイエンス』2021-11-05号の書評ページでは、意識の科学に関する新刊が紹介されている。神経科学者アントニオ・ダマシオ氏による『感じることと知ること――心に意識を宿らせるということ』(Feeling and Knowing: Making Minds Conscious)という本。まずは256頁という、このテーマの本については例外的な薄さに注目する。
脳科学/神経科学の教科書ではだいたい最後の章にラスボス的に登場する「意識の科学」は、究極の問いの風情を漂わせている。つまり難解であり、どこからどう切り込んでいくべきか、研究コミュニティにおいても未だ試行錯誤の段階にあるということだろうと素人は想像する。そんなテーマなのに薄い本というところにグッとくる。
まずは記事から一文を引用――
意識は頭だけでなく、心臓や腸を始めとする体全体にある、とダマシオは主張しています。*¹
ユニークな主張であり、その発想の根拠を知りたくなる。そしてもう一文:
感覚が最初に来て、次に心が来て、そして感情が来て、それが意識への道を開くというのが彼の提案である。*²
どうやら生物の進化をたどることで、意識の発生につながる道筋を考えようとしているようだ。
出版社のサイトをのぞいてみると、意識現象に対する独自の見解が48の短い章で記述されているもよう。こういうところもいい。これまで研究者の誰も成し得ていない「意識の定義」に(間接的に)迫るテクストなのかもと期待したい。日本語訳が出るといいな。■
【追記】
*¹[原文]The conscious mind, he argues, is not only in the head but also in the heart, the gut, and indeed the rest of the body.
*²[原文]Sensing comes first, he proposes, followed by mind and then feeling, which in turn opens the way to consciousness.