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科学雑誌を素人が読む[465]

うつ病の治療法に関する論文が先行発表されている。タイトルは「治療抵抗性うつ病患者に対する閉ループ神経調節」(Closed-loop neuromodulation in an individual with treatment-resistant depression)。キーワードは〈神経調節〉か。『ネイチャー』の姉妹誌『ネイチャー・メディシン』(natute medicine)という医学系ジャーナルのホームページのトップにある。

神経系である脳の内部に電気刺激を加えることで精神疾患の治療効果が期待できるらしい。この論文では、精神疾患のなかでもうつ病の治療が試みられている。オヤと思ったのは、タイトル中の〈an individual〉という単数形の表現。そう、今回の治療法が検討された被験者は「集団」ではなく「ひとり」。ということは、この治療法は確立した手法ではなく、未だ試験的な段階にあることが推測される。こうやって論文になったということは、その試みが一定の効果を得たということも。

論文要旨を読む。参加したのは大うつ病の患者一人であり、この女性の脳に電気刺激システムが埋め込まれている。興味深いのは、電気刺激を加える部位加えるタイミング。刺激を加える部位については、この患者に特有のうつ症状が出るときの特異的な脳活動パターンが現れる部位が事前に見極められている。つまり「こういう脳波のときに患者に症状がみられる」というパターンが明らかにされているということだろう。そして刺激を加えるタイミングについては、うつ症状の重症度が高まったときにのみシステムが刺激を加えるということにしているもよう。日常の全ての期間において刺激が加えられているわけではない。そして実験の結果、患者の気分を緩和することができたらしい。

もちろん今回の試みは患者一人きりでの成功なので、さらに多くの患者で検討していった先に、この治療法の有効性が確立したと言えることになる。今回はその第一歩。

素人の想像――うつ病でうまくいくなら、ほかの精神疾患、たとえば統合失調症とかてんかんとか自閉症とか? にも使えるのではないか。ひとり一人の疾患の症状の発症に伴って変化(活性化)する脳領域を事前に特定できれば(たぶんここがかなめ)、将来的に症状が現れるタイミングで、その関連脳領域を集中的に電気刺激することで症状をしずめられるのではないかというロジック。

そもそも電気刺激したらなぜ症状がおさまるのかについて知りたくなってきた。この技術にどんな副作用がありうるかについても。

この論文はウェブ上で公開されたばかり。雑誌「Science News」にさっそく記事が掲載されている。しかも当の被験者が顔出し/名前出しで登場する。読んでみよう。当事者の主観的な印象はどんなものか気になる。■

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