科学雑誌を素人が読む[454]
『サイエンス』の目次が公開されるのは金曜日の朝。2021-09-24号に掲載の「老化を逆転させて心臓を修復する」(Reversing aging for heart repair)という解説記事に注目する。
「老化」とは細胞の老化を指すようだ。老いつつある細胞の発生のベクトルを反転させて(つまり若返らせて)ひいては個体の心臓の修復を導くという話。この(動物)「個体」というところがウリのもよう。細胞レベルでは、何らかの操作を施して”若返らせた”と言い張ることは容易に思えるけど、それが動物の個体レベルにおいて若返りの証拠をつかんだというのは(もし本当なら)大きな進歩のような気がする。
具体的にどのような実験系が組まれたのか? 肝は「OSKM」と呼ばれる4種類の多能性因子(実質は転写因子/タンパク質)にあるとみる。OSKMを人為的に(タイミングを図って)発現可能なマウスをまず作る。(略すけれど)4種類の多能性因子の個々の名前からはiPS細胞技術が思い出される。
OSKMが細胞で発現すると、その細胞は「分化後の状態」から「分化前の状態」へと変わる(つまり若返る)。この仕掛けをビルトインした「トランスジェニックマウス」を実験に使う。そして、
マウスに心筋梗塞を(動脈を縛ることで意図的に)引き起こすタイミングで心筋においてOSKMを強制的に発現させると、最終的に心臓の不調が最小限に抑えられた、ということが今回の成果のもよう。つまりOSKMのおかげで部分的に若返った心筋細胞が、損なわれた心筋細胞を体内で補った、したがって心臓の機能が保存された、というロジック。
マウスは哺乳類であり、哺乳動物で試みが成功したということは、もう数歩先にはヒトでの応用が待っているということ。あとは、どのようにしてヒトでもOSKMの発現を誘導する系を作るかということになる。トランスジェニックヒトは作れないわけだから、別のルートが探索されるはず。
解説記事には他にもいろいろ書かれている。というか初めて聞く単語が矢継ぎ早に登場する記事は素人にはしんどい。一気には読めず。論文とあわせてじっくりと間を空けて読むのがいい。
ところでそもそも、なんで4種類の転写因子を細胞内で発現させればその細胞が初期化/リセットされるのか、その仕組みこそ知りたい。■
[追記]
✅解説記事で解説されている論文は、「心筋細胞を胎仔の状態に可逆的にリプログラミングするとマウスの心臓再生が引き起こされる」(Reversible reprogramming of cardiomyocytes to a fetal state drives heart regeneration in mice)。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?