見出し画像

科学雑誌を素人が読む[432]

研究の意義を知りたい(できればノレるやつ)――

『ネイチャー』2021-09-02号の目次がウェブ上で公開された。定期購読者ではないけれど、いつものように解説記事(今回は5本)のPDFをダウンロードしてプリントアウトしたり、論文(全17本)の論文要旨をコピーしてテキストファイルを作成したり、と一通りの下準備を進める。

目次をチラ見して第一印象で興味をもったのは、昆虫の嗅覚の話。論文のタイトルは「昆虫の嗅覚受容体でのにおい物質認識の構造基盤」。素人としては、昆虫の嗅覚を研究してそもそも何が面白いのか?(面白がれるのか?)と考える。虫の嗅覚のメカニズムが解明されると、どんないいことがあるのだろう? たとえば将来的に、害虫の嗅覚をかく乱する手立てを講じることができて、駆除などに役立つとか? または嗅覚系のメカニズムを虫と他の動物(たとえば哺乳類とか)と比較することで進化の経路を推測するとか? さらにはヒトの嗅覚系の疾患の治療法の開発につながるとか? あと何があるだろうか。

この論文には解説記事「昆虫ににおいを感じさせる受容体」が用意されている。わざわざ解説記事が書かれているということは、その論文の内容を専門家以外にも伝えたいという編集サイドのココロが背後にあると忖度する。解説記事を書いている研究者は論文の査読者(レビュアー)だということをどこかで聞いたことがある。ならば論文著者を含む当該トピック圏の住人でもあるはず。ギョーカイとしての「研究の意義」がどこにあるのか、解説記事のどこかに”公式”の見解が(さりげなく)書かれているやもしれぬ。研究者集団の興味のベクトルと、一般読者の興味のベクトルが同じ方向を向いているとは限らないけれど、専門家がどういう関心を抱いて研究を行っているのかを知ることは悪くないと思う――というようなことを念頭に記事を読んでいく。

まず冒頭で、虫除けスプレーに含まれているディート(DEET)に関する言及がちょこっとある。ディートは昆虫の嗅覚系に作用する分子のようだ。それから、昆虫とヒトの嗅覚過程、より詳細には「におい物質のコーディング」(odorant coding)の側面は似ているという言及がある。この事実の意味するのは、昆虫の嗅覚系の研究がヒトの嗅覚系の理解に(少なくとも部分的には)役立つということかと思われる。ヒトでは実施できない実験でも、昆虫なら実験動物としてじゃんじゃん使えるから。閑話休題。

記事には、今回その構造が明らかになったらしい「におい物質の受容体」の分子レベルの作用の話がこまごまと書かれているけれども、非専門家に届く/素人がノレる「研究の意義・意味」的な記述は多くないというのが結論。なので残念なことにメカニズムまわりの話が頭に入ってこない(自分だけ?)。幸いこの論文はオープン論文なので、著者たちによる研究の意義に関する記述を探してみたい。楽しみ。■


[追記]
✅昆虫を実験に使っている研究室って年に一回、虫の供養とか実施しないのかなとふと思ったりする。日本の製薬会社では、QC部門で日々つぶされる動物たち(ウサギやマウス・ラットほか)の供養を定期的に行っている(=慰霊碑にお参りする)のではなかったか。

✅今回の研究で使用された虫はイシノミ類(はじめて耳にする)のMachilis hrabeiという種。なぜこの虫が選ばれたのかについて興味がわく。

✅この2021-09-02号から『ネイチャー』の解説記事(NEWS AND VIEWS)を定期購読者が[Full Text]としては読めなくなったもよう(現時点ではPDFとしては読める)。科学ファンとしては残念だけど仕方がない。ちなみに昨日には、個人購読中の『サイエンス』のウェブサイトでも仕様の変更がみられた。欧米では新学期だからか。


いいなと思ったら応援しよう!