科学雑誌を素人が読む[434]
個人購読中の『サイエンス』――そもそもこの雑誌は専門家向けの学術誌なので素人が読める場所は多くない。特に後半に掲載された論文の部分はほとんど理解できない。それでも今、世界ではどんな研究がなされているのかなという雰囲気を少しでも味わいたくて、わからないなりに眺めている。
先日手元に届いた2021-08-20号の冊子をぱらぱらめくりつつ、いくつかの論文のタイトルを気の向くまま、素人なりに解釈してみたい:
①「ヒマラヤ・カラコルムの氷河水文学」(Glaciohydrology of the Himalaya-Karakoram)[論文ページ]
➣総説。「氷河水文学」なんてジャンルがあることは知らなかった。氷河を出発点に水の流れを考察しているもよう。水循環(hydrological cycle)の図が掲載されていてこれはグッとくる。なんか「全体」がつかめているような錯覚に陥らせてくれる。来たる(進行中の?)気候変動で氷河が溶けてどうなるか? という問いが研究の背景にあるのだろう。
②「転写ノイズを制御して細胞運命の転換を調節可能なDNA修復経路」(A DNA repair pathway can regulate transcriptional noise to promote cell fate transitions)[論文ページ]
➣「システム生物学」というラベルが貼られている。主語の〈DNA repair pathway〉に不定冠詞がついていることから、その「DNA修復経路」とやらはいくつもあって、そのうちの少なくとも1つについて言えることが考察されているとみる。「ノイズ」という語が複雑系っぽくて惹かれる。
③「3トラック・ニューラルネットワークを用いたタンパク質の構造および相互作用の正確な予測」(Accurate prediction of protein structures and interactions using a three-track neural network)[論文ページ]
➣この号のカバーストーリーでもある。タンパク質分子の立体構造(つまり折りたたみ)を人工知能で予測するというのは今とてもホットなテーマ。論文要旨をざっと読んでも、そこに〈DeepMind〉とか〈CASP14〉といった文言が踊る。
④「真核生物の翻訳終了の速度および忠実性を確保するメカニズム」(Mechanisms that ensure speed and fidelity in eukaryotic translation termination)[論文ページ]
➣「翻訳」というのはmRNAに書き込まれた命令が読み取られてアミノ酸残基がつなげられる細胞内プロセスのこと。タイトル中に「メカニズム/機序」の語が入る論文は魅力的なことが多いように思う。論文にはマンガチックな図版が複数掲載されている。まさに「仕掛け」を説明している。
⑤「哺乳類のレトロウイルス様タンパク質PEG10は、自身のmRNAをパッケージ化し、mRNA送達のためのシュードタイプを作ることができる」(Mammalian retrovirus-like protein PEG10 packages its own mRNA and can be pseudotyped for mRNA delivery)[論文ページ]
➣タイトルが長い論文はたいていマニアックという経験則がある(重箱のスミ的な?)。要するにウイルスがコードするあるタンパク質のふるまいを追った研究ぽい。「哺乳類のレトロウイルス」と聞くとHIVを思い出す。ミクロの世界に思いを馳せる。
⑥「SARS-CoV-2のB.1.1.7系統の出現の時空間的な侵入動態」(Spatiotemporal invasion dynamics of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7 emergence)[論文ページ]
➣Cウイルス関係の論文は現在でも毎号2、3本は掲載されている。〈侵入〉というのはウイルス株が市中に入り込む/拡がることを指しているのだろう。今回のはUKを対象とした疫学的な論文。論文には地図の図版がいくつもある。〈動態〉というのも気になるコトバ。時間を追ってある感染体がどのように動いていくのかという考察がなされているはず。
以上の6本で、この号に掲載されている論文全14本のうち約半分。タイトルだけ読んでもけっこう楽しめる。■
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