となりのSDGsインタビューvol.2 株式会社彦根麦酒 営業ディレクター・デザイナー 水野華織さん
滋賀県で行われている様々なSDGsに関する活動を紹介する「となりのSDGs」
この企画は、SDGsをより身近に感じてもらうために始まりました。
今回は「彦根麦酒」をピックアップ!
彦根麦酒とは
「彦根麦酒」はクラフトビール(※発泡酒)の製造・販売を行っている彦根市唯一の醸造所です。2021年5月2日に美しい田園風景が広がる荒神山の麓にグランドオープンしました。
石寺町の「非農用地」を使い、地元の集落・大学・企業が連携し、自然環境と調和した持続可能な事業プロジェクトとして「彦根麦酒」がスタートしました。
石寺町の地域コミュニティを次世代へと繋いでいくことを目的として、彦根産原料100%の「ALL HIKONE BEER」を造ることを目指されています。
現在は「ISHIDERA WEIZEN」をはじめとした5種類のクラフトビールを販売されています。
クラフトビール ラインナップ
「ISHIDERA WEIZEN」
地元石寺産の生小麦を使ったヴァイツェン。
「PALE ALE」
ホップの爽やかな香りとすっきりした苦みのある飲みやすいスタイルのクラフトビール。
「RED ALE」
ごくごく飲める苦みをおさえたアイリッシュスタイルのクラフトビール。
「PORTER」
軽やかな飲み口のブラウンカラー。
チョコやクリームチーズとのペアリングがおすすめのクラフトビール。
「AOZORA IPA」(8月発売)
華やかなホップの香りとスッキリとした苦みが楽しめるスタイルのクラフトビール。
彦根麦酒 荒神山醸造所
荒神山
彦根麦酒 荒神山醸造所の入り口 壁にはヨシがあしらわれている。
彦根麦酒と滋賀県立大学のつながり
荒神山周辺の景観に溶け込む木造平屋建、自然風を利用した換気システムなど環境に配慮した設計の施された荒神山醸造所。この建築や内装デザインは、滋賀県立大学が深く関わっています。
醸造所の設計は、滋賀県立大学環境化学部環境建築デザイン学科の白井宏昌教授を中心とした設計チームによるもので、アプローチのヨシ床と壁面のヨシ壁、家具、サインなどの設計・制作にも滋賀県立大学の学生が協力しました。
今回はそんな持続可能な活動をされており、地元「石寺町」の地域課題解決に携わる「彦根麦酒」さんの営業ディレクター・デザイナーである水野華織さんにインタビューを行いました。
クラフトビール造りのこだわりや、新しく事業を始めた時のお話など、広く話していただきました。
「彦根麦酒」さんの営業ディレクター・デザイナー 水野華織さんへのインタビュー(インタビュー日時:7月19日)
ーー「ISHIDERA WEIZEN」、「PALE ALE」、「RED ALE」、「PORTER」と4種類のクラフトビールがありますが、オススメはなんでしょうか。
おすすめは、石寺町で採れた小麦を原材料にした「石寺ヴァイツェン」というクラフトビールです。しかし、クラフトビールはスタイルにより好みが分かれるので、ほぼ均等にお買い求めいただいています。
ーーIPAなどクラフトビールの名前はどうやってつけられているのでしょうか。
クラフトビールは、作り方や原材料の違い、造られた時代背景等によって様々なスタイルがあります。「IPA」は「India Pale Ale」の略です。どのようにスタイルができてきたかという歴史がそれぞれにあるので、調べてみると面白いと思います。
――クラフトビールのオススメの飲み方はありますか。
私たちのクラフトビールはドリンカブルな種類が多く、料理やおつまみとかと一緒に合わせて飲むのがオススメです。
一番最近発売した「ポーター」は甘いチョコレートやクリームチーズなどと合わせて飲むと味が引き立つクラフトビールです。「レッドエール」は飲みやすいので、どんな料理にも合います。スパイシーな料理には「レッドエール」や、「ペールエール」などが合うと思います。「ヴァイツェン」はフルーティーで飲み口がまろやかなので、和食などに合うと思います。
醸造用タンク 1つのタンクで300Lが仕込める。
ーー彦根麦酒さんのクラフトビール造りのこだわりはなんでしょうか。
「節水醸造」を心がけています。クラフトビールの醸造にはたくさん水を使います。原料として使いますし、醸造後、タンクを丸洗いするのにも大量の水を使います。クラフトビール造りにおいて、洗浄はかなり重要です。そのため通常はたくさん水を使いますが、当醸造所は水をなるべく減らす取り組みをしています。例えば、冷やすための水を洗い水に再利用することで、できるだけ水を節約しながら造ることを意識していますね。
――同じクラフトビールでも味が大きく異なるのはホップなどが関係しているのでしょうか。
原料の組み合わせで味が変わってきます。クラフトビールは麦芽とホップ、水、副原料でできるのですが、その組み合わせが何通りもありますし、モルト(麦芽)や、ホップにもたくさん種類があります。温度や煮沸する時間、またどの酵母を入れるかによっても変わります。様々な組み合わせで多くの味ができるので、本当に無限です。やり方によっては本当にたくさんの種類のクラフトビールができます。
――水野さんは荒神山醸造所の建物や「彦根麦酒」のロゴのデザインを手がけられたとお聞きしましたが、どんな意味が込められているのでしょうか。
彦根で唯一の醸造所なので、彦根で造っているというのを表現したいと思い、彦の文字をあしらった分かりやすいロゴを手がけました。どんなデザインにも合うようにフラットな印象に仕上げました。例えば明朝体と合わせても映えるし、ゴシックと合わせても可愛い感じになるというように、そのロゴが個性を持ちすぎないようにしました。
ISHIDERA WEIZEN、 PALE ALE 330ml 660円
彦ロゴグラス 980円
彦ロゴをあしらったBOX
彦ロゴTシャツ
――この事業を始めるにあたって苦労されたことなどはありますでしょうか。
私は製造・販売業を経験したことがなく、取り組むこと全てが未経験のことばかりで、立ち上げ時はとても大変でした。ラベルに使用する紙や、販路の確保の方法、配送の手続き、会計周りのことなど、全部わからないことだらけでした。建物がオープン直前に完成したこともあって、最初はレイアウトも決まっておらず、オペレーションのマニュアルもありませんでした。しかし、その中で試行錯誤しながらお店を作っていくことは楽しいです。
レジカウンター 奥にはタップ(クラフトビールの注ぎ口)が並ぶ
ーー1から全てに関わって、今まで作られてきたんですね。
アルバイトの方達にたくさん助けられながら、役員小島*と協力し、みんなで作ってきたという感じです。
*小島なぎささん:彦根麦酒の取締役・醸造責任者
――販路などを確保するのも大変でしたか。
そうですね。販路についてはここに来ていただいたみなさんに提供するというのと、市内の飲食店・販売店に卸しています。
私たちは、いきなり全国的に彦根麦酒を広げていくことは考えていません。安定した品質の美味しいクラフトビールを作ることに集中し、まず彦根市内の皆様に彦根麦酒を認知していただき、徐々に市外や県外に広めていきたいと思っています。地域の連携の中でできたブリュワリーなので、そこをまず大切にしたいです。
――地域の問題をボランティアではなく、ビジネスとして成立させて行くならではの苦労などはありましたか。
ボランティアも居場所づくりのきっかけになる、活動によって助かる人たちもたくさんいるので大事なことだと思います。しかし、長くここの地域について持続可能な活動をするのであれば、企業として経営活動をしていくことが大切だと思います。
しかし、起業しても三年以内で畳む会社もたくさんありますし、事業を継続してやること自体が難しいことだと思います。また普通のビジネスだったら会社があって、お客様がいて、金銭のやり取りで成り立っているのがほとんどだと思いますが、私たちの場合、それに加えて地域の方が入ります。企業と、地域と大学と、産学連携、その関わる主体がどんどん増えていきます。お金の関わりだけでは済まされないのが、コミュニティビジネスの大変なところだと思います。でもそんな中から生まれるストーリーもありますし、良さややりがいがたくさんあります。
――非農用地を活用して環境に配慮した醸造所を建てられたり、彦根原産100%の「ALL HIKONE BEER」を目指してクラフトビール作りに挑戦されたりと、持続可能な活動をされていますが、この事業を始められる前からSDGsなどに興味を持たれていたのでしょうか。
SDGsの内容には滋賀県内でも今まで取り組まれてきたようなことが多いので、世界基準の目標としての17の目標に繋がる共通項もかなり含まれていると思います。
利益を生み出すことが評価される時代ではなくなっていると感じています。社会への還元が重視されてきていると思います。利益を生み出すために、環境に負担をかけてしまってはいけないわけです。そのような問題意識が顕著になってきたからこそ、自分たちの行動やあり方について見直し、社会や地球のための持続可能な活動や生き方が大切になってくるのではと思っています。
そのために私たちもできるだけ環境に配慮した醸造の方法を考えています。例えば基本的にクラフトビールの原料は輸入なのですが、地元100%のものを作り移動コストを抑えることで、輸送のエネルギーや環境コストを減らしたいと考えています。そういう活動まで、みなさんにお伝えできたらと思っています。
入り口前で育てられているホップ
――「資源循環型ブリュワリー」を目指し、SDGsを意識した醸造法に挑戦されているとお聞きしましたが、これからの計画などはありますか。
今だと麦芽カスなどを捨てることが多いのですが、最近やっと有価物として肥料にするような流れができてきました。今度はそれを使ったお菓子ができないかなど、麦芽の利用方法を考えていきたいと思っています。
また、排水も今だと産廃業者にお願いして水を回収してもらっていますが、自分たちで排水処理して自然に還元するようなこともやっていきたいです。販売面でも気泡シートを瓶一本一本に巻いていますが、プラスチックの無駄遣いになるので、できるだけ使わないような方法を考えていきたいです。
――これからSDGsというものを意識してビジネスを展開して行く人も多いと思いますが、その上で重要だと思うこと、またアドバイスはありますか。
私は広報が専門なので、発信することは大事だと思います。SDGsの要素があるのにそれに気づいてない会社も多いと思っているので、それを見つけ、発信することが大事だと思います。
インタビューを終えて
彦根麦酒の始まりから現在に到るまでの想い、また地元石寺町を大切にする姿勢が水野さんの発する言葉の節々から伝わってくるインタビューでした。
環境に配慮した持続可能なクラフトビール造りを通し、人々の繋がりを作り、課題を解決していく。そんな彦根麦酒の在り方が、これからのSDGs17の目標達成に必要になっていくと感じます。
SDGsは知っていても、どうすれば良いのかわからない。分かっていても現実は難しい。そんな想いを持つ方もいるのではないでしょうか。
難しく考える必要はありません。
あなたが思いつく「環境に良いこと」「次世代へ繋げていくために必要なこと」を小さなことから始めてみませんか。
それが、持続可能な社会への大きな一歩になります。
今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
彦根麦酒(荒神山醸造所)
営業時間:月木金11:00〜17:00 土日祝11:00~18:00
住所:滋賀県彦根市石寺町1853
Instagram:@hikonebrewing
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