まほうのおばちゃんインタビュー <前編>
「まほうのおばちゃん」として佐川町立図書館で月に一度読み聞かせをしてくださっている田村裕子さん。まほうのおばちゃんの読み聞かせを聞いていると、子どもだけでなく大人もまるで魔法にかかったように物語の中へ誘われ、わくわくしてお話を聞いていたあの頃に戻ることができます。おばちゃんの「おしまい。」の声とともに現実世界に呼び戻されますが、しばらくは物語の余韻を感じずにはいられません。
実は「まほうのおばちゃん」こと田村さんは、NPO法人とかの元気村が2006年から佐川町の図書館の指定管理者として運営していた約9年半、図書館長として活動の中心を担っていました。現在建設中の新図書館の整備検討委員会を立ち上げに関わるなど、佐川町立図書館の礎を築いた田村さんにお話を伺いました。
<前編>では、図書館長としての活動を中心にお届けします。
「まほうのおばちゃん」と佐川町立図書館
ーー「まほうのおばちゃん」としての読み聞かせはいつ頃からはじめられたのですか?
田村裕子(以下、田村) 「まほうのおばちゃん」になったのは2010年ごろかしら。読み聞かせ自体は図書館長になる前、保育所に勤めてるときからやっていました。ただ読んで聞かせるのではなく、自分がその物語を通して感じたことをどう共感してもらえるか、なにを伝えたいかということを考えながら読み聞かせしています。子どもたちと向かい合って読み聞かせをしているので、子どもたちが話を聞いているときの表情や、お話が終わった後の「はーっ」とした表情などを見ながら、ページのめくり方や読む速度などを変えてお話をしています。
ーー 図書館長になる前は保育所に勤められていたのですね。
田村 20歳から60歳で定年するまでの40年間、保母として勤めていました。生まれは高知市の春野町ですが、結婚を機に佐川町へ移り住み、お隣の須崎市で働いていました。私が勤めていた頃は子どもの人数がとても多く、ひとクラス45人ほど。なかなか大変でしたが、やりがいがありました。定年で保育所を辞めたあと、佐川町の図書館についてのお話がありました。佐川町立図書館が文化センターから富士見町に移転して数年経ち、指定管理に移行するというのです。NPO法人とかの元気村がその指定管理に立候補しようとなり、ちょうど保育所を退職した私にやってみませんか?と。
指定管理に応募するにあたってまずは、どんな図書館になったらいいのかということを地域のひとたちも交えてたくさん話し合って考えました。それらをまとめて町へプレゼンテーションすることになったのですが、プレゼンなんてしたことなく、当日は子どもにとっての読書の大切さをお話したと思いますが、何を話したかはよく覚えていません。想いをとにかく伝え、それが通じたのか、NPO法人とかの元気村が指定管理者になることができました。ただ、図書館運営のための研修時間なんてものはなく、2006年10月1日に引き継いで、すぐ図書館を運営していくことになりました。
日本一貧乏な図書館として
田村 簡単な引き継ぎだけで、図書館を任されてしまいました。なにもわからなかったのでまずはじめにやったことは、自分が利用者の立場になってどんな図書館だったら入りやすいかということを、入口から何回も出たり入ったりしてみたり、子どもの目線になって図書館の中を何回も何回も眺めてみたりしました。もともと法務局の建物だったので、色々工夫しなければならなかったです。はじめに目についたのはねずみ色の暗い壁、これをどうにかしないと明るくならないなと。けれども窓がたくさんあって、昔は今のように周囲に住宅がなく田んぼだったので、眺めは良かった。向こうの方には虚空蔵山が見えて、とても素敵な景色だったんです。窓を開けると涼しい風が入ってくる。本を読んでいてふっと顔を上げ、窓の外に目をやると緑がずーっと広がっている。これをどうやって活かすかということでまずはレイアウトからやり直し始めたんです。
ーー いちから手探りで図書館をつくっていったんですね。
田村 図書館を運営していくための資金も全然なくて、もしかしたら私たち「日本で一番貧乏な図書館」かもしれないわねって。だからこそ自分たちで考えて、なんとかしていくしかなかったんです。図書館の隣の空き地でフリーマーケットを開催して資金を集めてみたりしました。人に来てもらうためにお芋の天ぷらやコーヒーなどをカンパ方式で振る舞ったりして。そこで得た資金で子ども向けのイベントを開催するなど、大切に使わせてもらいました。
運営についても、様々な人から助けてもらいました。NPO法人とかの元気村として図書館の運営協議会を組織し、イベントを企画したり、運営についての会議をしました。日頃のことやお金のことも含めて、いろいろ問題点があったとしてもすべて隠さずみなさんにお話をしていました。NPOからも少なくない資金援助をいただいたりしながら、図書館が地域に支えられていることを、私たちも忘れないように運営していかないとなと思っていました。
「まほうのおばちゃん」として今でも佐川町立図書館に関わってくださている田村さん。読み聞かせはもちろんのこと、インタビューの語り口も非常に丁寧でわかりやすく、そして楽しく言葉を伝えてくれます。田村さんとお話をしていると不思議とこちらまで心が軽やかになってきます。
この日、読み聞かせしてくださった『ぼくのジィちゃん』からは、町内小学校の運動会の日が近かったこともあり、子どもたちの笑い声や運動会へのわくわくが、『赤いろうそくと人魚』からは、物語の寂しさとやるせなさが。大人、子ども関係なくお話を一緒に聞いた人と共有した空間は、その場でしか味わうことのできないものでした。
新しい図書館では読み聞かせのエリアも充実しています。そこでまほうのおばちゃんの読み聞かせを聞けるのがとても楽しみです。
<後編>では、引き続きこれまでの図書館での活動についてや、新しい図書館への期待を中心にお話を伺います。