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図書館の建築設計の話。

『佐川町立図書館さくと』の建築設計を担うのはハウジング総合コンサルタント、森下大右建築設計事務所、イシバシナガラアーキテクツのJVチーム。

高知を拠点に置くハウジング総合コンサルタントは、県内の庁舎・事務所、学校や消防署など多岐にわたる建築設計に携わってきました。また、大阪の森下大右建築設計事務所と東京のイシバシナガラアーキテクツは、大手設計事務所から独立した新進気鋭の設計事務所です。経験豊富な事務所と新たに独立した事務所がチームを組み、佐川町の新文化拠点のプロポーザルに挑み、見事最優秀提案者に選ばれました。

図書館の建築設計の最終選考のプレゼンテーションから3年が経ち、建設がはじまってからは、毎週のように佐川町を訪れ、現場確認や打合せ重ねてきました。

大阪の年季の入ったビルの中、森下さんの事務所はリノベーションされてかっこいい空間でした。

先日、私大道は大阪へ行く機会がったので、用事の合間に「森下大右設計建築事務所」へ訪問させていただきました。

森下さんは、大阪の大手の組織設計事務所に15年ほど務められ、これまでにオフィスやホテル、大学や図書館などの幅広い建築設計を担当してきました。高知県でも、いの町の庁舎や南国市の地域交流センター、高知県警察署に携わり、10年以上にわたり高知に足を運んでいます。そんな森下さんが独立後の初の仕事として手掛けたのが佐川町の図書館です。

森下さん「2021年に独立し、最初の仕事が佐川町立図書館でした。同時期に独立したイシバシナガラアーキテクツの長柄さんから、佐川町の新文化拠点プロポーザルが出ているとを聞き、すぐに『出そう!』と決めました。公告された週の金曜日に連絡を受け、次の月曜日には現地を見に佐川町へ向かいました。」

一般に、図書館や美術館など大規模な公共建築の設計プロポーザルでは、実績や経験が重要視され、新設の建築設計は選考の対象にはいらないこともありますが、佐川町の新文化拠点プロポーザルは独立したばかりの事務所絵も応募可能だった点も、大きな魅力だったと語ります。

森下さん「図書館や美術館をやってみたいという建築家はたくさんいると思います。そんな中、僕らみたいな若手にも門が開いていていたことも、大きなモチベーションのひとつになりました。」

当初につくった模型を眺めながら説明してくれる森下大右さん

プロポーザルに向けて

佐川町の新文化拠点の要項には、蔵書を収集保存する通常の図書館の機能に加え、地域のリソースを活用した情報ネットワークの構築、情報環境の設計といった要素が求められていました。図書館が情報拠点として地域の施設などとネットワークを形成していくデザインが求められており、従来の建築設計を超える提案が必要とされました。

森下さん「プロポーザルに向け、意匠設計や構造、設備などはチームはすぐに組めました。また、佐川町の植生の豊かさを活かすために、ランドスケープの専門家 oriori に声をかけ植栽の設計に入ってもらいました。ただ、情報環境設計は初めてで、難しかった。様々な方に相談し、株式会社リ・パブリックの白井さんを紹介してもらいました。」

プロポーザル案を作成する1ヶ月間、ランドスケープや情報環境設計の視点を組み込みながら、毎日のように大阪と東京と高知をオンラインつないで打ち合わせを行ったといいます。

事務所に掲示してある佐川町立図書館の設計資料

森下さん「どのような図書館が佐川町にふさわしいか議論してく中、自分たちだけじゃ出てこない形や言葉がチームによって出てきて、それをみんなで一生懸命考えて。基本的なアイデアを考えるのに2週間、図面を引くのに2週間。短い期間で大変でしたが、そのおかげで提案の強度が1段も2段も上がったと思います。

そこから今の図書館のベースとなる大黒柱や8の字型(無限大型)の回遊性のある空間が生まれ、様々な活動を行うスタジオなどの各部屋が生まれてきたとのこと。

森下さん「条件や面積など、要項に合わせて考えられるかたちを考えられるだけ考えて、現在の形になりました。2階建てなども検討しましたが、過去の経験のから、この建物は平屋がベストだと思いました。階段を上がるとなると、行きづらくなってしまいますし、景観上も高い建物を立てるのではなく、山と山裾、稜線のような建物がいいなと。」

最終選考


森下さん
「ここまで考え抜いたなら、いいところまで行くだろうという思いはありました。後で聞いた話ですが、様々な名だたる建築設計事務所がこのプロポーザルに応募していたらしいんですが、奇跡的に僕らは最終選考まで残りました。」

最終選考は公開プレゼンテーションでした。私、大道もいち町民としてプレゼンテーションを聞きに会場へ足を運びました。満員の会場での熱気と緊張感を今でも覚えています。どの提案も魅力的でわくわくする内容でしたが、森下さんを含めたJVチームが最優秀提案者となりました。建築の設計や情報環境設計の提案内容はもちろんですが、チーム体制やその熱意も高評価の要因となったようです。

「学ぶ」 という基本的人権への言及や、 質疑・ ディスカッションでの応答は、 佐川町の人々や新文化拠点に対する深い思考や真摯に向き合う姿勢が現れており、チーム全体で多くの議論が尽くされてきたであろう熱意と信頼感が伝わる内容であり、今後のさまざまな議論や、審査員の懸念事項にも柔軟に対応し、十分な検討や対話に応えていただけるであろうと審査員全員が、新文化拠点の設計を託すにふさわしいと納得したチームでした。

佐川町新文化拠点(仮称)整備基本設計プロポーザル講評より
公開プレゼンテーションに挑む森下さん(提供:arg)

2021年12月に行われた最終選考会から3年間、JVチームは高知へ通い、鰹とお酒に舌鼓を打ちながら、町民へのヒアリングやワークショップを行い、実施設計を作成し、新文化拠点の準備を進めてきました。計画当初に作成した3Dモデルを見てみると、町からの提案や新しいアイデアなどが盛り込まれ、細かいところに変化はありますが、ほとんどそのままに具現化されています。

森下「佐川町のプロポーザルは未来へ向けた挑戦状のように感じたので、「やったるでぇ〜!」という気持ちでした。この挑戦を設計チームだけじゃなく、利用者の方々と一緒に形にできたのが良かったです。」と振り返ります。

佐川町立図書館の建物の施工がもうすぐ完了します。いち佐川町民として、また佐川町立図書館の運営に携わるものとして、情熱のある森下さんをはじめとした建築設計のチームや情報環境設計のチーム、デザインのチーム、様々な専門家たちと一緒に新しい図書館をつくっていくことができたのを嬉しく思います。また、町民のみなさんと共にさらに発展させていく場となることを楽しみにしています。


図書館イベントのお知らせ


「できたてほやほや!さくとの建築から見える未来」

「さくと」の建築設計アドバイザーの赤松佳珠子さんと、建築設計を担当した森下大右建築設計事務所、イシバシナガラアーキテクツの設計者3名による対談を行います。ここでは書ききれなかったお話や、質問などを直接お聞きするチャンス。できたてほやほやの図書館を内覧する時間もありますので、ぜひお越しください。

講師:赤松 佳珠子氏(さくと建築設計アドバイザー)
日時:2024年11月2日(土)14:00 - 16:00
場所:佐川町立図書館さくと(佐川町乙1862-1)
定員:50名(要申し込み)
申込:こちらのgoole form  もしくは(0889-20-0202)にて

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