図書館が建つまで10年かかるきね。
『佐川町立図書館さくと』づくりに当初から参加している委員の方にお話を伺うとよく耳にするのが、「最初にお隣日高村の図書館へ視察へ行った際に、図書館が建つまでに10年はかかるきね。と言われたが、まさか本当に10年かかるとは。はっは〜笑。」ということ。目の前で建設が進んでおり、開館予定が見えてきたからこその笑い話ですね。図書館を建てるということは大きなプロジェクトだということがよくわかります。
ここで佐川町の新図書館建設プロジェクトについてのこれまでの経緯を整理したいと思います。<以前の記事>に建て替えのための署名活動を行ったとありました。そこから2014年に整備検討委員会が発足し、2015年12月に「提言書」を提出します。ちょうど2014年から2016年にかけて佐川町は第5次佐川町総合計画を策定しており、その中にも「図書館を充実させてほしい。 施設などを立て替える時は木のぬくもりのある建物にしてほしい。(p.53)」といった意見がみられました。(書いた方、叶いますよ!)そして、ようやく2018年に整備方針策定委員会が発足することになります。
図書館をつくるにあたり「須賀川市民交流センターtette」や「TOYAMAキラリ 富山市立図書館」など公共図書館の設立に数多く関わっており、図書館に関する雑誌『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』を発行しているアカデミックリソースガイド株式会社(arg)岡本 真さんをアドバイザーとしてお迎えしました。図書館を建てる機会は、自治体としてそう何度もあることではありません。岡本さんがいることで多様な視点、事例やノウハウ、外部とのつながりが生まれます。本当に助かります。
岡本さんの著書『未来の図書館、はじめませんか?(2014)』には、図書館をつくるには「基本構想」「基本計画」「整備計画」「実施計画」が必要であるとの記載があります。一般的にこれまでは、このプロセスへ住民の参加がしにくく、行政や建築側がつくってしまうことが多かったのだそう。近年ではこの傾向は変わってきているようですが、佐川町ではしっかりと、町民参加による図書館整備が計画されていました。関係者や町の人たちと共に、何が本当に必要でどんな図書館をつくったらいいのか、ワークショップ形式で検討していきました。
第1回目は2019年7月に実施されました。岡本氏の講演を聞いた後、そこに集まった参加者が「新しくなる施設への願い」というテーマでざっくばらんに書き出し、その想いをみんなで共有しました。実は僕もこのワークショップに参加していました(短パンサンダルで)。移住して数ヶ月だったので、町の図書館が新しくなるということも知らず、その歴史はおろか、どこにあるかさえあやふやな状態で参加したのを覚えています。このときは図書館をつくることに携われるとは思いもしませんでした。
第2回目は2019年10月に行われました。まち歩きを通して佐川町をあらためて観察してみるワークショップでした。名教館を出発点として、上町エリアを2グループに分かれて散策しました。名教館へ戻り、気付きの共有を行い、付箋と写真をマップ上へ整理しました。当初は散策した周辺であるJR佐川駅に近い上町エリアに図書館と青山文庫とさかわ発明ラボが融合した施設の建設を検討していたようです。
第3回目は2019年11月、新文化拠点(上記3つの機能が複合した施設を当初こう呼んでいました。)で起こり得るストーリーづくりを行うワークショップでした。「図書館、文化拠点でどんなことができたらいいか」「図書館、文化拠点がどんな場所になったらいいか?」「新しい図書館、文化拠点ができたらこの地域はどうなるだろう?」をテーマに、自分や自分以外の利用者モデル、利用の背景を設定し、施設で生まれる利用体験ストーリーを組み立て、チーム内と全体で、考えられたストーリーを共有しました。
図書館をつくっていくにあたり、さらに3名のアドバイザーを招聘します。図書館の運営については「瀬戸内市民図書館もみわ」の元館長であり『図書館・まち育て・デモクラシー (2019)』の著者である嶋田 学さん。文化・歴史資料のデジタル化やその活用など情報環境については、京都府立総合資料館に10年勤められ『ひらかれる公共資料 (2023)』の著者である福島 幸宏さん。そして建築設計については、学校や図書館などの公共施設の設計に数多く携わっている株式会社シーラカンスアンドアソシエイツの赤松 佳珠子さんという錚々たるメンバー。
町民参加のワークショップで出た意見やアドバイザーの意見をもとに、2021年に「整備基本構想」が策定されました。その「整備基本構想」をもとに建築の公募型プロポーザルが実施されます。多くの応募の中から4つの事業者が選定され、公開プレゼンテーションが行われたのが2021年の12月。文化センターの大研修室が埋まるくらいの人が傍聴に来ていました。場に漂う緊張感。それぞれ特色のある提案でどれも実現したらすごく面白いなと思いながら、僕もドキドキしながらプレゼンテーションを拝見していました。
厳正なる審査のもと、最優秀案となったのは「ハウジング総合コンサルタント + 森下大右建築設計事務所 + ishibashi nagara architects 設計共同体」。
「情報の導き手としての『人:ガイド』と、情報へのタッチポイントとしての『場:スタジオ』、そして情報のコンテナとしての『術: ミドルメディア』の 3 つの概念を導入することで、やってみたいという小さな思いと、まちでうまれるさまざまな活動の間をつなぐこと、そして佐川町のこれまでとこれからをつなぐことなど、実空間と情報空間をつなぐことを中心に置いた提案」であったこと、「新しいことにどんどんチャレンジするおおらかさこそが佐川らしさであるとし、大きな木の下のような、おおらかな屋根がつくる風景や、その大きな屋根の下にみんなが学び合う風景こそが佐川らしいシンボルであるとした明快な提案」だったことが評価のポイントだったと講評に記載されています。
2022年3月には、設計者によるオンライン説明会や設計者による町民ワークショップが行われました。佐川町のみならず、町外からの参加もあり、さまざまなアイデアがありました。「実施設計報告書」をみているだけでもワクワクしますが、ワークショップで出た活動案や活用アイデアなどは設計や活動計画にも活かされています。2022年6月には「整備基本計画」が、そして2023年3月に「運営基本計画」ができました。
そして2024年6月現在、佐川町立図書館は「運営基本計画」に沿って図書館づくりを行っています。県内の図書館のデータや全国の同規模程度の図書館のデータなどからどんな本をどのような割合で置くことが佐川町にふさわしいか、新しい図書館でどんな活動ができるか、佐川町に適した持続的な文化活動やそのサポート体制の設計など、とにかく良いものをつくりたい、みなさんに喜んでもらいたいという一心で図書館チームは日々開館に向けて準備しています。ここまで10年かかりましたが、開館まであと6ヶ月。そして建って終わりではない図書館づくり。きっとこの10年が短かったと思えるほどに、図書館づくりは開館後も何十年、何百年、時代とともに続いていくものなんじゃないかと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?