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金田アツ子|名曲喫茶のブーケ

 東京にはまだ、訪れたことのない名曲喫茶がたくさんある。うっかりしているうちになくなってしまった場所もある。さみしい。

 けれども金田アツ子さんの出してくれる昔ながらのデザート菓子は、いつまでたってもなくならない。遅くなってもいつも出迎えてくれる、わたしが来るより少し前の街の記憶。

 まるで塔のようにそびえ立つ色とりどりの花々。しかしそれは花器ではなく、デザートプレートに載せられてやってきた。

 終わりもなく始まりもない純白の円形に、いつまでも褪せることのない菫色の花びらをぐるりと着飾って。金田さんのデコレーションケーキは甘く芳しいまま、永遠に咲き続ける。

 薔薇の味をご存知? とびきり甘い冬の記憶に、ほんの少し胡椒をふりかけたようなパフェ。

 とある言い伝えでは、霧の森に暮らす吸血鬼の一族が好んだそう。

 春先の花々を摘みとって、一体なにをこしらえよう? 指輪? 王冠? ブーケ? それとも……

 アツ子さんの手にかかると、ひとたび季節のデザートに。お花畑のようなプリン・ア・ラ・モード。

 薄明かりのランプの下、カフェテーブルに花束のようなデザートが並んでいく。蓄音機がチラチラとラヴェルを奏でる。かぐわしい花の香りに包まれながら、音楽の続く限り時が止まる。カウンターのレース越しに、アツ子さんが微笑む。

金田アツ子|画家 →X
絵を描いて、個展やグループ展などで時々発表しています。静かな喫茶店とピアノの音が好きです。

高田 怜央 Leo Elizabeth Takada|詩人・翻訳者 X
横浜生まれ、スコットランド育ち。上智大学文学部哲学科卒。言葉の秘密を探っています。第一詩集『SAPERE ROMANTIKA』、対話篇『KYOTO REMAINS』。翻訳に映画『PERFECT DAYS』など。2024年、霧とリボン コラボZINE 詩と短編小説『黎明通信』(川野芽生 共著)を刊行。



作家名|金田アツ子
作品名|gâteau décoré

アクリルガッシュ・バロンケント
作品サイズ|15.2cm×10.6cm
額込みサイズ|19.5cm×15cm
制作年|2024年(新作)

作家名|金田アツ子
作品名|Parfait
 
アクリルガッシュ・バロンケント
作品サイズ|14.2cm×9.2cm
額込みサイズ|19 cm×14cm
制作年|2024年(新作)


作家名|金田アツ子
作品名|Pudding à la mode

アクリルガッシュ・バロンケント
作品サイズ|9.2cm×14.2cm
額込みサイズ|14cm×19cm
制作年|2024年(新作)

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