松下さちこ|わたしは夢見る「博物画」
胸躍らせる人々の群れを抜けると、モーヴ街7番地「スクリプトリウム」に写字室が立ち現れていた――。新たな入居者である松下さちこ様の作品は、科学的記載を重視した「博物画」のような簡潔な表現で描かれながらも、豊かな感情が見出される植物や鉱物、生物と、生命を宿した書き文字(カリグラフィ)が見事に融合しています。
2023年9月霧とリボンにて開催予定の個展《惑星の花びら(仮)》の序章となる作品群をお楽しみください。
太陽のような薔薇として咲く「自己」、思惑の雲の涙、結晶となった記憶。中世の宗教画のようにシンボリックな象形に目を奪われます。のびやかな根は、あちらこちらに興味を抱いて踊り、いつしかそれらを取り囲むカリグラフィと同じメッセージを呟き始める。
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ガラス鐘の技巧が映える一方で、どこか馴染みの閉塞感が漂う。それでも、薔薇はきらめきを散らす。厚く描かれた文字からは、荒々しい外界と、それでも生命を絶やさぬ確固たる自負が匂い立つ。
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小柄な薔薇に、蝶々が会いに来た。そっと約束の口付けを。ゆるやかに湾曲した草茎、花は客人を抱きかかえる。
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真っ赤に燃える「私」。胸を膨らませ、重なり合う花弁。凝縮した宝石を、葉脈のひとつひとつが支えている。
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誰にも触れることのできない温かなエメラルド。「私」との祈りの時間へと帰してくれる。
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すべてを見つめられるからこそ、悲しい。大地を這い、植物に絡めとられ、気体へと飛翔し、そうして純なる雨は、やわらかにくぐもった筆致で、一滴の恵みを落とす。
草茎の文様とカリグラフィが、文字の美しさを極限まで引き出し、優美ながら畏怖をも感じさせる自然物。「小さな宇宙」を秘めた多くの心を震わせる、新たな写字室の幕開けです。
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作家名|松下さちこ
作品名|私の美しく小さな惑星
インク・色鉛筆・紙
作品サイズ|18cm×13cm
額込サイズ|21.5cm×16.7cm×2cm
制作年|2022年(新作)
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作家名|松下さちこ
作品名|惑星シリーズ(5種)
作品サイズ|7cm×9cm
額込サイズ|12cm×10cm×2cm
|A|私の小さな小さな惑星
インク・色鉛筆・紙
|B|惑星の住人
インク・色鉛筆・紙
|C|惑星の欠片
インク・色鉛筆・紙
|D|惑星のひと粒
インク・色鉛筆・色画用紙
|E|惑星の涙
インク・色鉛筆・紙
制作年|2022年(新作)
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