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ニコラス・カルペパーの窓|川野芽生×ruff×Du Vert au Violet|星座写字室〜風のエレメント

コラボレーション・コフレ
『星座写字室〜風のエレメント』

 代々の護り人が博物図譜をひそかに受け継ぎ、気の遠くなる時の流れの中でその時代時代の尖端が織り込まれ、いまこうして届けられた——イラストレーター・ruff様の作品を初めてみた時の打ち震える衝撃は、今でも鮮明なままです。
 その作品にはアンティークの風合いが質感豊かに盛り込まれていながら、透明感あふれる現代的なセンス、さらには未来のノスタルジーをも感じさせる不思議な時の揺らぎが留められていました。

ruff|シガレットカード
(本コフレ収録)

 これまで、数々の霧とリボン企画展へのご参加に加え、2020年には念願の個展《菫色少年秘密倶楽部〜ゼニアオイの箱庭》を開催。当時吉祥寺に構えていた実店舗の休業に深いご理解を頂き、オンラインにて比類なき美の結晶をお届け致しました。

 その際、タロットを題材にした初コラボレーション作品を3セット(THE STAR/THE MOON/THE SUN)発表。ruff様オリジナルの箔押しタロットカードとDu Vert au Violetのプライヴェート・ポプリが出会う、贅沢な企画が実現致しました。

コラボ作品『THE STAR』
ruff|タロット(2022年)
コラボ作品『THE STAR』
Du Vert au Violet |ポプリ(2022年)

 ruff様の繊細な造形感覚と誠実なお仕事ぶりに改めて感銘を受け、コラボレーションへのさらなる夢が広がり、このほど本展にて新シリーズを発表するに至りました。
 今回ruff様がお披露目するのは、アンティーク蒐集家の間でも人気が高い素敵アイテム「シガレットカード」。博物学的センスで星座とハーブが交差するシリーズです。

ruff|シガレットカード
(本コフレ収録)

 夢のような新企画が始まった段階でもうひとつ、大切にしてきた夢の行方に胸を高鳴らせていました。

幾重もの瞼を順にひらきゆき薔薇が一個の眼となることを

川野芽生 第一歌集『Lilith』(書肆侃侃房)より

 川野芽生さまの歌集を紐解いた時、薄き頁の一首/一輪が絶壁に立っている、その孤高のエレガンスに身を裂かれるような感覚を覚えました。そののち手にした『月面文字翻刻一例』には幻想の掌編が並び、そこでも気高く馨しい薔薇に出会いました。

 「薔薇」——それは私のポプリ研究において、孤独の象徴。

 2020年から本格的に取り組むようになったポプリの実験・研究。わけても難関だったのが、予想外の「薔薇」の存在性。生花の薔薇、香水の薔薇、精油の薔薇、ドライハーブ/ハーブティの薔薇——これまで馴染みのあった美しい薔薇の香りを潔く「諦める」ことでしか薔薇の処方をスタートできないことに、研究の過程で気づいたのです。

 「重み」——「諦める」原因となった、調合と熟成を経て完成するポプリにおける薔薇のテクスチャーです。
 重みを生かした薔薇の処方を探求するため幾度も失敗しては立ち止まり、パンデミック禍も重なり、孤独な挑戦を繰り返した末にようやく、ポプリならではの薔薇園の入り口に立つことができました。

 彼らの治世が終わり、彼らが砂の上を流れる川のように地上から姿を消したとき、いっそう美しくなったおまえたちだけが残り、星々の列に加わる。そのときふたたび相見えようと、星々は告げた。
 薔薇たちははなびらを震わせて頷いた。

川野芽生「薔薇の治世とその再来」より
『月面文字翻刻一例』(書肆侃侃房)収録

 川野さまの孤高の「薔薇」たちに出会い、かように高い香気を漂わせるポプリを調香してみたい、との夢が芽生えました。

 編集者・鈴木真理子さまと共に最終年の菫色の小部屋に現れた川野さま。詠まれた薔薇の花びらのごとき裳裾を揺らしながら、ふんわりやわらかな足取りで絶壁を歩かれるご様子が印象的でした。
 嬉しいことに昨年末より企画展やモーヴ街へご参加頂き、高田怜央さまとの共著『黎明通信』ではデザインを担当する機会を得ることで、そのご才能の煌めきを間近で拝見できたこと、幸甚でした。

 このほど夢叶い、各シガレットカードで取り上げた星座と植物をモチーフに、珠玉の掌篇三篇を寄せて頂きました。

川野芽生|「風の星座の物語」

 さて、そろそろ「星座写字室」の扉がひらく時間です。

 或る夜、彗星の尾を追って辿り着いた夜菫色の写字室。 薄アブサン色のシルクタッセル揺れる扉を開けると、風のエレメントの守護石が迎えてくれる。 トレーシングペーパーのカーテンから、写字室の様子がうっすらと覗いている。 イラストレーター、小説家、ポプリ調香師——風のエレメントの写字に取り組む三者の小部屋が現れた——



 12星座を3人のアーティストがそれぞれの手法で写字するシリーズ・コフレ。
 イラストレーター(ruff)は「シガレットカード」を、小説家(川野芽生)は「ロトゥルス(掌篇が綴られた巻物)」を、調香師(Du Vert au Violet)は「プライヴェート・ポプリ」を。
 風のエレメント(双子座・天秤座・水瓶座)から、三様に写字された星座の風景をどうぞお楽しみ下さい。

『星座写字室』セット内容

 夜菫色の角留め箱は、星空を封印するのにうってつけの佇まい。欧羅巴産のシックな板紙の風合いも魅力、昔ながらの製法でひとつひとつ職人さんが手作りしています。

 外装は、薄アブサン色の封蝋と3枚のクレジットラベルを瀟酒にレイアウト。彗星の尾を模したタイトルラベルをAnchorラメ入り刺繍糸で結びました。

  12星座のシンボルを周囲に、中央にはパンジーとニガヨモギ、そして三者を意味する星を配しました。風のエレメントのポイントカラーである薄アブサン色にシルバーを混色した封蝋です。

本コフレにセットされる
主要全10アイテムをご紹介します

 写字室の入り口は濃菫色。シルクタッセルをノックして、写字室へそっと入室致しましょう。

 迎えてくれるのは、グラシン紙製ペーパーサシェに封入された風のエレメントの守護石。

 シトリン(双子座)、ラピスラズリ(天秤座)、煙水晶(水瓶座)の欠片が写字室と出会うひとときを祝福します。

 うっすらと霧の向こう側に、三者の写字室が見えてきました。

 星を写字する三者の気配を感じながら、トレーシングペーパーのカーテンをくぐります。 

 「星座写字室」へ、ようこそ!
 カーテンの奥から、三者の小部屋が現れました。


左|ruffの写字室(シガレットカード)
中央|川野芽生の写字室(ロトゥルス)
右|Du Vert au Violetの写字室(プライヴェート・ポプリ)

 ひとつ目の小部屋は、ruff様の写字室。
 縦長のプロポーションも素敵なシガレットカードが現れました。各星座の支配星に対応する植物は、『ニコラス・カルペパー ハーブ事典』(パンローリング)よりセレクトされています。

表面

 本展にて同時発表の原画作品では銀箔が施されている部分をシガレットカードでは特色シルバー印刷で再現。よりシックに、よりアンティーク風に。

特色シルバー印刷が光を集めて

 博物図譜を受け継ぐカード裏面のデザインにもご注目下さい。

裏面

 繊細な意匠と構成の妙が冴え渡るシガレットカード、1枚ずつのご紹介です。

描かれている植物は
ラヴェンダーとフェンネル
描かれている植物は
スパイクナードとマグワート
描かれている植物は
パンジーとウィンターグリーン

 静かな秋の夜にふさわしい、ruff様の美意識により写字された風のエレメントの風景です。

 本日この後、原画作品が公開されますので、どうぞお楽しみに。

 ふたつ目の小部屋は、川野芽生さまの写字室。
 幻想の掌篇を納めるのは、最も古い書物の形態であるロトゥルス(巻物)。星座輝く夜空に巻かれた三篇は、タイトルタグと共に銀ラメ刺繍糸で結ばれています。

 くるくると夜空を紐解く所作も新鮮なロトゥルスで味わう格調高い川野さまの三篇、1点ずつのご紹介です。

川野芽生|「双子座」より
川野芽生|「天秤座」より
掌篇が刷られた面
川野芽生|「水瓶座」より

 裏面には夜空と星座。ロトゥルスのカット線を斜めにすることで、特色シルバー印刷の縁が現代的な巻物の風情を伝えるべく、ストライプ模様を浮かび上がらせる仕様です。読んだ後は、最初の設えと同じように、薄アブサン色の筒に通して仕舞って下さい。

 川野さまの文法により写字された風のエレメントの風景は、夜空の闇が深まるほどに輝きを増しゆくようです。

 みっつ目の小部屋は、Du Vert au Violetの写字室。
 天然原料のみを調合、一ヶ月かけて熟成したポプリが「Flacon à sel(気付け薬の小壜)」をイメージした夜空色の小壜にボトリングされています。

ラメ入り刺繍糸で装飾された小壜
ドライハーブ、スパイス、精油が調合されているポプリ

 「プライヴェート・ポプリ」とは、室内香ではなく、読書するように一対一で香りと対話するポプリ。香りを楽しみたい時に栓を開けて、深く優しい香りをひとときお楽しみ下さい。
 夜のヴェールを通してハーブを見るように、壜からはポプリがうっすら透けて見えます。

 夜空を香りで満たすDu Vert auViolet。その処方で写字された風のエレメントの風景が小壜に封印されています。
 持ち歩き用ベロア巾着とプライヴェート・ポプリの楽しみ方や注意事項を明記した解説書も付属します。
 

 双子座——ラヴェンダー・フェンネル
 天秤座——スパイクナード・マグワート
 水瓶座——パンジー・ウィンターグリーン

 各星座の支配星の元にある共通の植物が三者の写字室を囲んでいます(パンジーのみ、ポプリでは匂菫)。

 シガレットカードの図案を読み解き、ロトゥルス(巻物)に綴られた物語を彷徨い、ポプリ壜を開栓してハーブたちの香りを聞く—— 三者三様の写字の風景をどうぞお楽しみ下さい。
 小脇にかかえて、夜のお散歩のお供にいかが?

 ひとたび開封すれば、「星座写字室」はもうひとつの「私ひとりの部屋」。
 自身を整え、感性を自由に飛翔させ、知性を磨き蓄える場所、誰にも邪魔されずにリラックスでき、安心できる場所——文学、アート、香りとの交流により、皆様の「私ひとりの部屋」が充実してゆくことを願い、本コフレをお届け致します。

 『星座写字室』はシリーズ企画となります。
 次回は来年2025年3月発表予定。今後の「薔薇」の登場にもご期待下さい。

ruff|イラストレーター →X
鉛筆や絵具、箔押しなどのアナログとデジタルを組み合わせ、モードとアンティーク、仄暗い雰囲気の世界や住人を描く。

川野芽生|小説家・歌人・文学研究者 →Linktree 
1991年神奈川県生まれ。2018年に連作「Lilith」で第29回歌壇賞、21年に歌集『Lilith』で第65回現代歌人協会賞受賞。24年に第170回芥川賞候補作『Blue』を刊行。他の著書に、短篇小説集『無垢なる花たちのためのユートピア』、掌篇小説集『月面文字翻刻一例』、長篇小説『奇病庭園』、エッセイ集『かわいいピンクの竜になる』、評論集『幻象録』、歌集『人形歌集 羽あるいは骨』『人形歌集II 骨ならびにボネ』がある。2024年7月、第二歌集『星の嵌め殺し』刊行。

Du Vert au Violet|プライヴェート・ポプリブランド →Tumblr 
室内香ではない新しいスタイルのポプリ——読書するように一対一で香りと対話する「プライヴェート・ポプリ」を提案しています。霧とリボン運営、2021年設立。文学・アート・ポプリを詰め合わせたコフレはじめ、ポプリまわりのオリジナル・アイテムを気鋭のアーティストとコラボレーションしながら発表しています。ブランド名はベル・エポックの詩人ルネ・ヴィヴィアンの同名詩集から。



作品販売期間
【10月20日(日)21時~22日(火)21時】
BASE【15%OFFクーポン】利用可能
(*諸条件あり)

作家名|川野芽生 × ruff × Du Vert au Violet
作品名|【ご予約品】コラボ・コフレ『星座写字室〜風のエレメント』

掌篇|川野芽生
シガレットカード|ruff
プライヴェート・ポプリ|Du Vert au Violet

企画・編集・デザイン|霧とリボン
制作年|2024年(新作)

主要10アイテム
オリジナル角留め箱入り
箱サイズ(外寸)|13.3cm×20.5cm×3.2cm

セット内容
掌篇|巻物3篇
シガレットカード|3種・各1枚
プライヴェート・ポプリ|1壜
シルクタッセル付き扉|1枚
守護石の欠片|1包
トレーシングペーパーのカーテン|1枚
ポプリ壜用ベロア巾着|1枚
解説書ほか

*ポプリの詳細はオンラインショップに記載しています

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