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ニコラス・カルペパーの窓|くるはらきみ《2》|「夜」の属性

 文化を広く見渡すと、物事にはいくつかの基本的な属性があることに気が付きます。
 そのひとつに「夜」の属性があります。

 深い思索、記憶との対話といった話題が語られる時、夜と結びつけられやすいのは、日が沈んだ後の時間にそれらが始まりやすいという経験からでしょう。

 くるはらきみ「メランコリーシスル」では、夜空の下に立つ女性が、周りのアザミの花と同じ幻惑的な色のドレスを見に纏い、スカート部には夜空から摘み取ったように星々が輝いています。

 メランコリーシスルはスコットランド全域に植生する、棘のないアザミ。カルペパーによれば、「これをワインで煎じて飲めば、憂鬱は体外に排出され、コオロギのように陽気になる」とか。

 カルペパーがいた17世紀は、現代の科学の礎となった「錬金術」が実践志向になりはじめた時期でもあります。
 錬金術師たちが探究したのは、物質の変化。
 蒸留は、その基本操作でした。

 「ラベンダーの蒸留のイメージ」では、右下でフラスコを炙る炎が草原に座る女性のスカートに転身し、青空の雲は精油を含んだ水蒸気となって天使が待つ上へ上へと向かい、第二フラスコで冷却されて、水と精油に分かれます。

 蒸留は変化の操作。2人の女性が同一人物ならば、ラベンダーを手にする左の姿が大人びて見えるのは、きっと錯覚ではありません。

 地上にあるものと天体が対応関係にあるという占星術の世界観は、謎と苦難に満ちた地上の世を、把握し、手を加え、未来を構想するための一般システムであったと言えます。

 「The evangelist of  herbal」では、ひとりの人物を星座のモチーフたちが取り巻いて祝福するかのようです。

 この人こそはカルペパーだ、と言ってみたくなりますが──どうでしょう? 彼の知を受け継いだ世界に生きる私たちは、ここに自分自身の姿を見出す時があるかもしれません。

 植物の力を目の当たりにするたびに、私は、自分と古代から続く想像力との血縁を感じます。

くるはらきみ|画家・人形作家 →X
東京生れ。幼い頃より自然のある場所に憧れる。大学では油彩を専攻しながら独学で人形制作を始める。2000年に長野県に移住。季節の移り変わりを身近に感じながら制作活動をしています。くるはらきみ & 影山多栄子二人展《夏の夜》(2019年・霧とリボン)ほか、個展、グループ展多数。

森 大那|作家・『彗星ブッククラブ』主宰 →Lit.Link 
1993年東京生まれ。早稲田大学卒業後、2016年より文芸誌『新奇蹟』にて小説・詩・批評を発表。2018年よりWebサイト『彗星読書倶楽部』を開設し、読書会を主催する。2021年より、文学作品を解説するYouTubeチャンネル『彗星読書倶楽部』開設。2023年6月、作品集『深い瞳を鋭くして』刊行。同年11月より、【オールインワンの読書体験】を提供するオンライン書店『彗星ブッククラブ』を開設。



作品販売期間
【10月20日(日)21時~22日(火)21時】
BASE【15%OFFクーポン】利用可能
(*諸条件あり)

作家名|くるはらきみ
作品名|メランコリーシスル

油彩・キャンバス
作品サイズ|23cm×16cm
額込みサイズ|28.6cm×21.6cm
制作年|2024年(新作)

作家名|くるはらきみ
作品名|ラベンダーの蒸留のイメージ

油彩・キャンバス
作品サイズ|23 cm×16cm
額込みサイズ|29.2 cm×22.2cm
制作年|2024年(新作)

作家名|くるはらきみ
作品名|The evangelist of  herbal

油彩・キャンバス
作品サイズ|18.1cm×14.3cm
額込みサイズ|26.5 cm×22.7cm
制作年|2024年(新作)

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