ニコラス・カルペパーの窓|巻頭エッセイ|熊谷めぐみ|古への窓を開けて
植物と香りに包まれた古から吹く風が、惑星や星座のきらめきと神秘をまとって、モーヴ街を駆け抜けていきます。その風は好奇心と革新性に満ちて、どうやら7番地「スクリプトリウム」の扉を優しく叩いたようです。
訪れた先では、過去から受け継がれた知恵と自然の恵みからインスピレーションを得た、作家たちの個性的なアートが私たちを迎えます。
さあ、古の窓を開けて、今へと、そして未来と続く香りに包まれた旅をしてみませんか。
17世紀イギリス、薬草学と占星医術を繋ぎ、後世に多大なる影響を残した人物がいました。
ハーバリストであり、占星術師でもあったニコラス・カルペパーは、医療と占星術が強く結びついていた時代に、薬草学の知識を生かした占星医療を行い、これまでの伝統を受け継ぎながらも、独自の道を切り開きました。
カルペパーは自らも医術者として多くの人を治療する一方、その知識を限られた特権階級の人々の間で独占することなく、人々へ広めようと試みます。カルペパーは薬草や医療に関する本を、ラテン語ではなく一般市民が使用する英語を用いて翻訳し、著しました。
そうした彼の労作は、当時のイギリスのみでなく、遠くは海を越えて反響を呼びました。その革新的なやり方に反発も少なくなかったようですが、カルペパーは信念を貫き、植物学と占星医療の知識の普及に大きく貢献することに成功しました。
カルペパーの時代の占星術や医学は、現代の考え方とは大きく異なります。当時の占星術は医学と深く結びついていると考えられており、カルペパー自身も著書で、7つの惑星と12の星座が人体のどの部位に関連しているかを示し、各惑星に対応する治療に用いる植物を解説しています。
こうした占星医術は現代では一般的ではありませんが、ハーブや占星術の知識や伝統は、現代にも様々な形で連綿と受け継がれています。
一つ一つのハーブの効能や特性に通じ、天体や人体と自然の結びつきを詳細に読み解いたカルペパー。発見と未知への挑戦は、まるで日々、窓の向こうに見える新たな世界を手探りで発見するようなものだったのかもしれません。窓の外には、今までない景色が見えたことでしょう。そして、その窓は、誰かが開けるものではなく、自らの力で押し開く窓、casementであったはず。カルペパーが未知と出会った場所でした。
そして今、モーヴ街7番地「スクリプトリウム」では、作家たちが、古から続く窓を通じてカルペパーの世界と出会います。ハーブや薬草、その香りや、占星術と関連する惑星や星座などからインスピレーションを得たその窓から、今度は作家たちが自由な想像の翼を広げ羽ばたいていきます。
新しい世界を垣間見た窓、その窓をそっと開いて、あなたも古から続く香りと風を感じてみませんか。きっと創造の力が私たちを魅了してくれることでしょう。
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