AIが行う電話対応に不満を抱く人々――「求められる声」を考える

2024.10/04 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、電話に対応するAIアシスタントが抱える問題から、AIに求められる声を考えたいと思います。

◾電話対応するAIアシスタントに多くは不満を抱く

昨今は、ユーザーがカスタマーサポートセンター等電話をした際、AIアシスタントが対応するサービスがあります。例えば、米「Tenyx」という企業もその一つで、大規模言語モデル(LLM)を利用して、文脈に応じてユーザーの会話に返答を行います。また日本でも、電話の取次といった対応をAIが行うサービスもあります(ドコモの「AI電話サービス」等)。

https://www.tenyx.com/

ただし、Tenyxがリサーチ企業に依頼した調査によれば、消費者の10人に7人が、AIアシスタントによる対応に不満を抱いていることがわかりました。特に55%は、AIに不満があると、サービスをやめたり同業他社のサービスに移行すると回答しています。一方、回答者の67%は基本的に人間との会話を望んでおり、絶対に人間ではないと嫌だ、という回答者は30%。逆にAIアシスタントとの会話を好むのはわずか3%でした。いずれにせよ、企業にとって、サポートの音声一つが大きな機会損失を招いてしまうことになるのです。

このAIアシスタントによる電話対応は、ユーザーの話した内容に一定レベルで返答が可能ですが、複雑な問いに対しては返答ができないことが最大の課題となっています。ユーザーのアクセントや発音を適切に理解することができないため、誤返答が多くなってしまいます。それ故に、嫌な経験をしたユーザーは他社製品等に切り替えてしまうのです。

もちろん、AIアシスタントの会話精度も今後は向上するでしょうし、調査でも66%が、AIが人間に匹敵するのであればAIを使うと答えています。また、人間のオペレーターが対応する場合でも、AIを用いることで、どのような言葉を紡ぐべきか等のサポートをオペレーターに行うサービスもあり、必ずしも人間かAIかの二者択一ではないと言えるでしょう。

◾️AIアシスタントはキャラクターが良い?

一方、AIに求められる属性とはなんでしょうか?

声とは離れますが、2018年に当時24歳の女性が自分が立ち上げたツールのウェブサイトに、ユーザーとのチャットを可能にする機能を搭載しました。しかし、アイコンに自身の写真を掲載すると、性的な内容をはじめとする不快なメッセージが多く寄せられてしまったとのこと。そこで写真を共同創設者の男性のものに変更したところ、性的なメッセージはなくなり、ツールに関する有用な話題が多く届きました。

ある考えが浮かんだこの女性は、次にいわゆる「美人」と言える魅力的な容姿の女性に写真を変更したところ、これまで以上に不快なメッセージが送られました。そこで最後にアイコンの写真を猫を模したキャラクターに変更したところ、再びフレンドリーなメッセージが男性写真と同じくらいになりました。

これは大変残念な結果であり、また学術的な調査でもありませんが、社会のひとつの側面を写しているものと思われます。実際、2020年に韓国で発表された「イルダ」という女性キャラのAIチャットボットは多くの問題を孕んですぐに公開停止となりますが、そこでも性的なハラスメント発言が多く寄せられました。

ここから得られる考えとは何でしょうか。少し先の将来、電話以外にも声を利用したAIとの会話によるサービスが増えていくでしょう。すべてがAIで対応可能になった時、人々は上記と同様の、つまり相手の声が女性であると不快な発言を行うユーザーが増える可能性が指摘できると思います。

以前も紹介したように、AIアシスタントを中性的な声にする試みもありますが、声で対応するAIの属性を、性別に限定されないキャラクターにするといった試みが(それが社会的に良い対応であるかはどうかは別としても)、必要となるかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?