ゾウは互いを名前で呼び合っている――「ゾウの鳴き声」の最新研究

2024.10/18 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、ゾウの鳴き声からわかった驚きの最新研究をご紹介します。

◾AI研究で進む動物の声

これまでご紹介してきたように、昨今のAIの発展によって、動物の生態の詳細がわかるようになってきました。音声領域では、様々な動物が声を利用してコミュニケーションを行っていることがわかっています。その代表がクジラであり、AIで分析したところ、クジラは人間でいうアルファベットのような、音声記号に基づく発話を行っている可能性がわかってきました。

またクジラとの20分の会話に成功したという研究報告や、各クジラがそれぞれ異なる音を発することもわかってきました(つまり、個体を認識できるということです)。さらにイルカは、母親が子どもに赤ちゃん言葉(マザリーズ)で話しかけていることが判明するなど、AIによって続々と新たな出来事がわかってきました。


◾️ゾウはそれぞれ固有の名前を持っている可能性

そんな中、今度はゾウが「自分の名前」を持っている可能性を指摘する研究が発表され、話題になりました。この研究は米コロラド大学の研究者を中心とした様々な団体から成る研究チームによって、2024年6月に科学誌『ネイチャー』に掲載されました。

研究者たちは、ゾウの鳴き声にはそれぞれ名前を呼ぶ要素があるのではないか、という仮説を立てて、アフリカゾウを対象に研究を進めます。というのも、長年アフリカゾウに触れてきた研究者は、ゾウが鳴き声を挙げると、振り返るゾウとそうでないゾウがいる状況を何度も目撃したとのことです。

そこでチームは、ケニアにある国立公園や国立保護区域において、1986年~2022年にかけて録音された、101頭のゾウの469の鳴き声を機械学習モデルで分析します。特に注目したのは、遠くにいる姿の見えない相手に対しての鳴き声と、近くにいる個体に投げかける鳴き声、そして子育て中のゾウの挨拶や世話する時の鳴き声です。これらの鳴き声には、相手の名前を呼びかけるケースが多いと考えられるからです。

分析の結果、鳴き声のうち27.5%には呼びかけた相手の名前があるものことがわかりました。ただし、数字としてはまだ不正確さが残るものです。そこで研究者たちは、実際に鳴き声を聞いたゾウがどのような反応を行うかを調べました。実際に17頭のゾウに対して様々な鳴き声を再生して反応を調査すると、自分の名前が含まれている鳴き声を聞いたゾウは、他の鳴き声よりも強い反応を示すことがわかりました。このことから、ゾウの鳴き声には、呼びかける側に特定の名前があり、受け取る側も自分の名前を受け取っていることがわかったのです。

この結果が驚きをもって受け取られたことには理由があります。というのも、まず名前を含んでいると思われる鳴き声は、バンドウイルカやオウムにもみられる現象です。しかし、イルカやオウムの鳴き声は通常、呼びかけられた鳴き声の声を模倣したものを鳴き返す「コールサイン」を利用するもので、特定の名前を想定していません。一方今回のケースでは、ゾウはそれぞれ固有の名前を理解しており、抽象的な思考能力を示唆するものと考えられるのです。

◾️音が伝える多くの意味

また、ゾウの鳴き声は一般的に「パオーン」という、トランペットのような高い音を想像しますが、実際はゴロゴロ音(ランブル音)という低い音(低周波音)もあり、その一部は人間の可聴域外、つまり、人間には聞くことができない音があります。

重要なのはこのゴロゴロ音で、この音は地面を伝って0.5秒から12秒にわたって続くため、実際は名前だけでなく、より広範な内容の情報を伝えている可能性があります。人間の声も、言語情報だけでなく、怒りや悲しみなど、音には言語情報以外の情報=パラ言語が含まれていることを考えれば、当然の事象であると言えるでしょう。今回の研究も、このゴロゴロ音を分析の対象としています。

このように考えれば、現代の音研究によって、いわゆる「言語」をはじめとした動物の抽象的な思考能力の可能性とともに、パラ言語のより詳細な内容を分析することも可能になるかもしれません。音研究はAIを伴うことで、より広大な領域を目指すことが可能になると思われます。

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