論文やウェブサイトの内容を音声コンテンツ化して説明するAI――Google「NotebookLM」の新機能

2024.9/13 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、Googleが公開しているAIツールに搭載された、音声機能について紹介します。

◾Googleの「NotebookLM」

Googleは「NotebookLM」というAIツールを公開しています(現在は無料で利用が可能です)。このツールは、論文等のPDFやウェブサイトのURLなどの「情報=ソース」を読み込ませると、内容をGoogleのAIが分析し、内容の要約や論点の抽出など、様々なことが行えるツールです。

例えば英語の学術論文を読み込ませても日本語で要約を表示したり、内容について質問を書くとAIが日本語で質問に答えます。あるいは長文の報告書等を入力しても、重要な点を抽出するなど、多様な使い方が可能です。もちろん、100%正確とは言えませんが、ChatGPT等の生成AIと異なり、与えているソースが限定されており、あくまでその内容から分析を行うため、精度は高いといえます。

また、入力するソースは複数可能で、例えば複数の学術論文を読み込ませて、関連性を抽出したり、ビジネスデータを分析させることもできるでしょう。さらに興味深い点は、ソースを入力すると、質問項目が自動で表示されるため、候補として表示された質問をクリックすることで、情報を深く理解することも可能です。

◾ポッドキャスト番組のように内容を音声で解説

このように、無料で利用できるにもかかわらず非常に有用な働きをするNotebookLMですが、最近新たな機能「Audio Overview」が追加されました。

この機能は、なんと入力したソース(データ)を分析し、内容を解説する数分の音声コンテンツを自動生成するというものです。音声は男女二人のAIホストが、入力した内容について語り合うというもので、Audio Overviewボタンを押すと数分で生成されます。AIホストの会話レベルが高くない、という批判もありますが、これも今後精度が上がっていくでしょう。残念ながら現在は英語のみの機能であり、日本語の情報を入力しても、出力されるのは英語の音声コンテンツです。

とはいえ、日本語対応もそう遠くない時期にできるものと思われます。以前、新聞等でニュースを「読む」から、ポッドキャスト等でニュースを「聞く」というトレンドの変化を紹介しましたが、今後はニュースだけでなく、書籍や記事、論文等の内容についても「聞きながら考える」ことが可能になったということです。

いずれにせよ、こうした要約音声コンテンツの登場は、その是非は別にせよ、情報をどのように摂取するかをめぐる、まったく新しい段階に私たちの社会が突入したと言えるでしょう。AIは今以上に情報を理解しやすく伝えるだけでなく、私たちが考えもつかなかった質問=疑問をAIが投げかけ、AIがそれに反応し、私たちはそのような状況を端から見ることになります。情報の正確性の問題は今後も重要な問題ですが、限定されたソースの分析に限っては、人間よりも正確に情報を記憶・分析することができると考えられます。

このように考えれば、今後私たちは、AIによって下支えされた知識をベースとし、そこからより深く思考し、考えを発展させる必要があるように思います。これまで人間がしてきた要約のような作業の多くをAIが代替してくれるのであれば、それ以上に創造的な思考を展開する必要があります。

一方、音声分野でいえば、AIは文章=視覚情報だけでなく、より多くの音声=聴覚情報を提供することが可能になってきました。Audibleで本を「聞く」ことも一般化してきました。あるいは以前も紹介したように、例えば語学学習では、英語字幕を読みながら英語を同時に聴くことで、学習効果が高まるという研究結果もあります。音が学習にも役立つのです。

こう考えれば、複雑な文章も音で聞きながら文章を同時に読んだり、あるいは要約音声コンテンツを聞いてから文章を読み直し、さらにAIと会話しながら考えを深めていくなど、AIと音声を利用した「私たちの思考」のあり方に、大きな変化をもたらし得るかもしれません。

ちなみに、GoogleはAudio Overviewと同様、書籍や論文を要約して音声コンテンツを生成する「Illuminate」というツールも開発しており、デモ音声を聞くことができます。おそらくAudio Overviewと同じAIを利用していると思われますが、NotebookLMから独立して、資料から音声コンテンツを生成することに特化したツールが「Illuminate」になると思われます。


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