自分の声の変化と向き合う――「加齢性音声障害」との付き合いかた

2024.8/02 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、加齢に伴う自分の声との付き合い方について、様々な研究結果も踏まえて紹介します。

◾加齢性音声障害とは

人間は年齢と共に筋力等が衰えていきますが、「声」についても例外ではありません。「ナショナル・ジオグラフィック」誌では、年齢と声について、様々な研究等を紹介しています。
(「声の老化は健康や生活の質にも影響、治療法や自分でできるケアは」

まず、加齢に伴う筋肉量の低下や姿勢の変化、声帯萎縮等によって発声に関わる問題が生じやすくなります。これは「加齢性音声障害」と呼ばれ、声が小さくなったり、かすれや声の震えが生じます。また、喉の筋力低下に伴って嚥下障害のリスクも上がります。先行研究では、65歳以上の高齢者の13%~30%が発声障害を経験しているとの報告もあるほか、加齢性音声障害は、早ければ50代から生じるとのことです。

また米マサチューセッツ州にあるラセル大学、エマーソン大学の研究者チームが2014年に発表した論文では、22歳~79歳の人々が文章を読む声を96人の若年層の人々に聞かせました。その印象を調べた結果、年配層の人々の声は、知恵のあるという印象の一方、若者に比べて力強くなく、魅力に欠けると判断しているという結果が出ています。これらの印象は、いずれにせよ高齢者に対するステレオタイプ=固定観念を助長する可能性が指摘されています。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0261927X13519080

◾自分の声の変化と付き合う

加齢による声の変化は他にも、性差による研究や遺伝、職業など、様々な要素が絡んでいますが、包括的な研究はまだ多くありません。

また、発声の問題を解決する方法として、ホルモンを補充するものや、声の変化に関連した「甲状腺肥大」を抑える治療薬を利用するもののほか、言語聴覚士による声や呼吸、姿勢を訓練するといった、薬を利用しない方法も挙げられます。一方、発声障害が深刻な場合は、声帯を補強する「声帯内注入術」をはじめとした手術もあります。

こうした治療方法がある一方、予防の観点ではやはり、セルフケアが重要です。とはいえ声の健康を保つことに大きな特徴はなく、基本的には健康的な生活を送るということが第一です。とりわけ声にかかわるものとしては、喫煙はなるべく避けるとともに、専門家は室内では加湿器の利用を推奨しています。夏は加湿器は不要ですが、喉の潤いを保つには室内の湿度は50%以上がよいとされます。

他方、先のナショナル・ジオグラフィック誌の記事は、深刻な発声障害でない限り、自らの声の変化を「受け入れる」ことも重要であると指摘します。

2022年にフィンランド、デンマーク、スウェーデンの研究者チームによって発表された論文では、スウェーデンに住む67歳~83歳の高齢者14人(女性13人、男性1人)を対象に、音声を専門とする言語聴覚士の著者グループが聞き取り調査をしています。参加者は様々な話をしていますが、例えば声を維持するためによく話したり、合唱団に入る人も多くいました。また同時に、声の変化は加齢に伴う自然なことと受け入れている人も多くいたことがわかりました。

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14015439.2022.2056243#abstract

深刻な場合は医療にアクセスすることが必要な一方で、変化を受け入れながら、自分の状況に合わせてコミュニケーションを行うことが重要であると思われます。

というのも、以前も紹介したように、認知症の原因のひとつとして挙げられる「難聴」は、聞こえづらさからコミュニケーションへのためらいが生じ、それが認知症のリスクを引き上げます。これと同様に、発声障害からコミュニケーションをためらうとコミュニケーションが不足し、様々な健康リスクが生じることが予想されます。

したがって高齢者の発声については、ケースバイケースではありますが、自らの声の変化を受け入れつつ、自分に最適な方法で声とうまく付き合いながら、状況に応じて医療機関にもアクセスすることが重要でしょう。いずれにせよ、声とコミュニケーションという観点も、重要な要素であると思われます。

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