おいしいコーヒーは超音波でつくれる?――「超音波でつくるコールドブリューコーヒー」の紹介

2024.8/30 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音を利用してコーヒーの抽出時間を短くする研究について紹介します。

◾音で味が変わる「ソニックシーズニング」

音が味に影響を与えるという研究が存在します。その最たるものは、以前も紹介した「ソニックシーズニング」と呼ばれるものです。

私たちは五感を使って生きていますが、聴覚と味覚など、そのうち2つ以上を利用して知覚することは「クロスモーダル知覚(現象)」と呼ばれています。確かに、味は匂いや目でも楽しむものです。

また、航空機の機内音がする環境では、甘みが感じにくくなる一方、うま味の感覚を高めるという研究もあります。航空機ではトマトジュースがよくオーダーされるといいますが、うま味成分の多いトマトジュースが頼まれることがあるのは、関係があるかもしれません。

実際、お腹に響く低周波サウンドと、明るい高周波サウンドを流した状態では、チョコレートは低音環境だとより苦く、高音環境だと甘く感じられるといいます。すなわち、低い音は苦味を感じやすく、高い音は甘みを感じやすいということです。ただし、こうした音と味の関係については、文化圏ごとに異なる、という研究もあります。

◾コールドブリューコーヒーの抽出時間は、超音波で短くなる

ところで、コーヒーを日常的に飲む人は多いと思われますが、「コールドブリューコーヒー」はご存知でしょうか?コールドブリューコーヒーは水出しコーヒーとも呼ばれ、その名の通り水で抽出するため、12~24時間もの時間がかかります。ただ、通常のコーヒーと異なり、酸味や苦みが少なくすっきりした味わいが特徴となります。

このコールドブリューコーヒーの抽出時間を短くするため、ニューサウスウェールズ大学、クイーンズランド大学、シドニー大学の研究チームは2024年4月に発表した論文で、コールドブリューコーヒーの抽出時間を、なんと3分にまで短縮したというのです。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1350417724001330

研究は、市販のエスプレッソマシンに「超音波」を与えることで抽出を加速する点が特徴です。その方法を簡単に説明します。まず、エスプレッソマシンのコーヒー粉を置く部分に、超音波を与える装置を付け加えます。それにより、論文では「音響キャビテーション」が加速するといいます。キャビテーションとは液体に泡が発生する現象のことで、簡単に言えば、超音波を与えることで、液体となったコーヒーに多くの気泡が発生し、その衝撃でコーヒーの風味等がうまく抽出されるというのです。

(ちなみに、この超音波キャビテーションは、メガネの洗浄にも利用されるものです。)

https://weekly.jins.com/library/library177-ultrasonic-cleaner.html

こうして出来上がったコーヒーの比較試験を行ったところ、従来のコールドブリューコーヒーとほとんど遜色のないものだったとのことです。ただし、1分の抽出の場合は香りがわずかに及ばないもので、逆に3分だと苦みがわずかに強くなるとのことで、研究者は飲む人の好みに応じて超音波を当てる時間を調整すればよい、と述べています。

今回の研究で利用した超音波システムは特許を取得済みということであり、もしかしたらこの特許システムが組み込まれたコーヒーマシンが今後販売されるかもしれません。いずれにせよ、コールドブリューコーヒーが好きな人には、嬉しい音の研究と言えるでしょう。

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