魅力ある声は、平均化された声ではない――「魅力的な声」を考える

2024.11/01 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、魅力ある声に関する研究を紹介します。

◾魅力的な顔は、様々な特徴を平均化した顔

前回お伝えしたように、人の声は男女問わず、平均より低い声は「能力」や「強さ」を感じることがわかっています。

では、能力や力強さではなく、「魅力的な声」とはどのようなものでしょうか。この点を考えるために、まずは声ではなく「顔」に関する研究を簡単にみてみましょう。

顔の魅力についての研究は数多くありますが、1990年代にはすでに、複数人の顔を合成し、平均した顔は、元となる個人個人の顔よりも魅力度が高い、とりわけ左右で平均的な形態の顔(均一性がある顔)は評価されるといった研究があります。実際に化粧品企業の花王が調査したところ、32名のモデルの顔を平均した顔を3パターン作成、つまり96名のモデルの顔から3つの平均顔を作成したところ、平均化した顔よりも評価の高い顔はわずか4件だけでした。

もちろん、こうした研究は数多くあり、他にも顔をみる角度であったり、髪型等も考慮され考えられる必要があるとされます。とはいえ、ひとまず人の顔は、平均的であると魅力度が増すということができそうです。

https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/records/47935

◾️魅力的な声は、特徴的な声

では、魅力的な声も、やはり平均的なものになるのでしょうか。カナダのマクマスター大学の研究者とイギリスの研究者のチームは、声と人の魅力に関する論文を2024年5月に発表しています。その内容を一言で言えば、声は特徴的な方が魅力があるとの結果が示されました。

先行研究では、声はより平均的な方が魅力的と主張するものもありましたが、実際にその効果を再現した研究がなかったため、今回の研究で実証実験を行いました。そこで研究ではまず、マクマスター大学の男子学生と女子学生それぞれ32人、計64名を対象に、「こんにちは(Hi)」という声を録音します。そこから、男性2人の声を平均した声や、男性16人の声を平均した声など、さまざまな人数から平均した声のバージョンを作成します。すると、一人ひとりの声と、様々な声をあわせて平均化した声が、男女合わせて126バージョン出来上がりました。

こうして出来上がった126の声を、今度は20代の男性49人、女性47人にそれぞれ聞いてもらい、魅力度を評価してもらいます。その結果、平均化した声は「特徴がない」というスコアを高めました。その後、ほぼ同様の実験を行ったところ、平均的な声の魅力度が高くなることもありませんでした。つまり、平均的な声は特に「魅力的なものではない」ということがわかりました。

研究者はさらに声の魅力を、基本周波数、簡単に言えば感情やトーンを調節する声の高さ(ピッチ)と、声色や質感に関係するフォルマント周波数と呼ばれる要素の関係から分析しました。その結果、魅力度が関係するのは基本周波数、すなわち感情やトーンを調節する声の高さ(ピッチ)に関係することがわかりました。そこからわかったことは、男性は平均より低い声、女性は平均より高い声を「魅力的」と感じるということでした。ただし、サンプルはあくまで20代の男女の声となるもので、サンプルが変われば評価も変わる可能性もあるでしょう。

◾️声研究の今後

今回の研究からは、人が魅力を感じる声は、平均的なものよりも、男性は平均より低く、女性は平均より高いという結果が現れました。ただし、特徴的とは言っても、こうした結果は私たちが日々感じていることと、大きく変わるものではないかもしれません。

とはいえ、平均とは異なる声の高さや低さについては、研究を重ねることで、さらに多くのことがわかるようになるでしょう。いずれにせよ、声と魅力の研究が、今後も様々な角度から考える必要があるといえるでしょう。

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