有名人の声はどこまでAIで利用すべきか――「声の権利」を考える

2024.10/11 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、有名人の声をAIが学習する場合の「権利」に関する最近の動きを紹介します。

◾有名声優の声を利用した多言語化戦略

2024年10月7日、AIサービス会社「CoeFont社」と、声優専門のプロダクション「青二プロダクション」がパートナーシップ締結を発表しました。

CoeFontは以前も紹介したように、多くの人の声を合成音声化し、読み上げサービスなどを行うAI音声プラットフォームを運営しています。自分の声を登録して合成音声化し、他者た利用すれば利用料の一部が自分に還元される、という仕組みで、企業をはじめ、著名人やナレーター等も登録しているサービスです。

今回のパートナーシップはグローバル戦略に向けた展開を目指すもので、青二プロダクションに所属する10名の声優の音声データを利用して、英語や中国語といった多言語化、また音声アシスタントや音声ナビゲーションに利用することを目的としています。すでに野沢雅子氏(『ドラゴンボール』孫悟空役等)、銀河万丈氏(『機動戦士ガンダム』のギレン・ザビ役等)といった著名声優の名前が発表されています。

一方でこの発表では、アニメや外国語映画の吹き替えといった「演技」に関わる領域にはサービスを提供しないことも強調しています。AIと演技をめぐっては多くの課題があるからです。以下でこれまでの議論について振り返ってみたいと思います。

◾️日米で進む「声の権利運動」

俳優の権利をめぐっては2023年、アメリカの俳優およそ16万人が加入する組合「SAG-AFTRA(映画俳優組合―米テレビ・ラジオ芸術家連盟)が起こした大規模なストライキを覚えている人は多いでしょう。報酬の引き上げだけでなく、AIを用いた俳優のデジタル複製などに関するルールを求めたストライキでした。

こうした海外の動きと平行して、日本でも「日本俳優連合 」が生成AI技術の使用に関する提言を発表しています。AI利用に関するルールづくりを求めたり、新たに「声の肖像権」の新設を急ぐよう求めています。

また日本俳優連合が2023年12月~2024年2月にかけて調査したところ、生成AIを利用し、歌手やキャラクターの声で様々な歌を歌わせる「AIカバー」など、声の不適切な利用が、少なくとも267件あったことを発表しています(特にプラットフォームとしてはtiktokに多くみられたとのことです)。

また2024年7月には、AI開発者や弁護士などが主体となって、一般社団法人「日本音声AI学習データ認証サービス機構(AILAS(アイラス))」が立ち上げられています。現状では多くの権利が守られない中、AILASは音声データの認証制度の導入を目指します。これによって、AIが学習するデータが管理・認証され、ビジネスとして正当な声の取り扱いを可能とすると同時に、不適切なAIの利用の発見や対処にも貢献できるものです。AILASは2025年からの本格始動を目指しています。

さらに、先に紹介したSAG-AFTRAでは、ゲーム部門の会員が2024年7月26日からストライキを行っています。このストライキは、ゲームの声優の声をAIが学習し、複製された音声が利用されることを危惧したもので、様々なゲーム企業との交渉が決裂したためストライキが行われています。

一方、9月に入り、一部のゲーム作品ではAI使用に関する取り決めが交わされるなど、ストライキは現在も行われてはいるものの、解決の方向に進んでいます。SAG-AFTRAは2024年4月にも、アメリカの主要なレコード会社との間で、歌手の声のデジタル複製を行う場合には事前の同意を交わすこと等で合意をしています。

この他にも、当事者同士で権利関係をクリアした上で楽しめる声のサービスは増えています。一方、権利関係が曖昧なまま、声の「搾取」が行われているのも事実です。また冒頭のように、声の「演技」をAIがどこまでし得るのかなど、議論は今後も続きそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?