人工衛星やAIを利用した漏水対策――「漏水調査と音」の最前線

2025.2/14 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的とています。今回は、水道管の漏水調査の音に関する、最新情報をお伝えします。

◾漏水調査と音

埼玉県八潮市で1月28日に発生した道路の陥没事故を契機に、水道管の漏水・老朽化が社会的に注目を集めています。
(こちらはTBSラジオ『荻上チキ・Session』でも、特集されています)

水道管の漏水・老朽化対策は急務の課題ですが、水道管の調査には音が利用されています。基本的な水道管の漏水調査には、音聴棒という音を判断するツールを利用し、漏水音を確認します。

他にも「漏水探知器」といって、路面にセンサーを設置し、発生する振動音から漏水を発見します。さらに「相関式漏水探知器」は、2つのセンサーを用いることで、漏水音を捉えた時間差から、漏水箇所を突き止める装置です。(道路などの場合、交通量の少ない深夜などに行うことがあります)

他にも漏水発見には様々な方法がありますが、基本は音を利用するものです。家庭でも水道料金が高い場合など、音聴棒を用いたり、業者に依頼して漏水を発見する必要があります。

https://www.city.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/24559.pdf

◾️AIや人工衛星を利用した漏水発見システム

政府は2024年、上下水道の漏水検知に、人工衛星やAIを活用する技術を、今後5年程度で全国の自治体などに展開して、標準化する方針を示しています。そこで「上下水道DX推進検討会」を設置し、官民一体となって上下水道の課題に対する対策を議論しています。

実際、AIを利用した漏水調査システムの開発も進められています。例えば音解析企業の「wavelogy」は2024年から、長崎市上下水道局と連携して、漏水音のAI診断検査システム「SuiDo_AI」の実証実験をはじめています。こちらは、路面や管路から収集した音をAIが分析。漏水予測などのレポートを自動で作成するというシステムです。実験は今年の3月末まで行うとのことです。

もうひとつ注目されているのが、「人工衛星」です。昨今は宇宙ビジネスとして、人工衛星を用いたサービスが展開されています。その方法は、まず人工衛星から地表にマイクロ波を流して、そこから水道水特有の反射データを取得。これをAIで分析すると、漏水の可能性がある場所が半径100メートル程度の範囲で推定できます。

その上で、今度は水道管等にセンサーを設置し、水道管内の音をAIで解析し、詳細な場所を発見するというシステムです。このシステムであれば、効率的であるだけでなく、特に交通量が多い場所など、人間の聴力で調べるのは限界があるところも調査が容易です。

また、人工衛星は基本的に天候も昼と夜も関係なく、1度に広範囲を調査できるので、調査エリアを絞り込むだけでも、大幅にコストダウンと効率化が達成できるということです。

実際、例えば新潟県長岡市ではこれまで、総延長2400kmの水道管を、音聴棒や漏水探知器などを用いて、基本的に人が調査していました。この方法だと調査に10年かかっていたということです。そこで2023年から人工衛星とAIを用いた調査を導入したところ、期間は3年に短縮し、費用も6割程度削減できるということです。

調査の精度はまだ25%程度ということですが、データが増えれば精度も今後上がるだろうと、長岡市の担当者は答えています。

他にも福岡市が同様の実証実験を行っており、成果を上げています。こうした事例を受けてか、能登半島地震の被災地域の一部でも漏水調査に利用すると発表されたり、宮城、福島県の一部の地域と水道企業団が、人工衛星を使った漏水調査を共同で実施することで合意しています。共同調査であれば、データ共有や費用の削減などが期待できます。

https://www.city.fukuoka.lg.jp/shisei/mayor/interviews/documents/kaiken2_IoTsensor.pdf

水道管の調査にはこれまで通り、音が重要な意味を持ちます。こうした音に、AIや人工衛星を利用した技術を重ねていくことは、インフラ対策として今後ますます重要性を帯びていくことでしょう。

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