音楽は人と生演奏を聞くとより効果的?――「音楽の感じ方」に関する最新研究紹介

2024.9/20 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、どのような状況で、どのような音が、どのような影響を人に与えるのかについて、いくつかの興味深い事例を紹介します。

◾音楽は大人数で聞くと効果的

人と一緒にいることで元気が出た、という経験は誰にでもあるでしょう。実は音楽も、誰かと聞くと喜びが増大するという研究があります。これは仏リヨン大学や米ニューヨーク大学、伊パヴィア大学等の研究チームが2024年6月に発表した論文によるものです。

https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(24)01186-6?

論文によれば、すでに先行研究において、音楽を聞くと主観的に気持ちが良くなるだけでなく、脳の快楽や報酬に関係する領域が活性化され、利他的な行動、協調的な行動をすることにつながること、さらに情報の長期記憶に寄与することがわかっています。要するに、音楽は仲間意識や記憶力の強化に寄与するというのです。

こうした先行研究の踏まえ、今回の研究は、3つの実験をオンライン上で行います。

1つ目はアメリカ在住の被験者52名に、自分の好きな曲か、実験者が選んだ曲を聞いてもらい、その後喜びや親しみなどの感覚を評価します。この時、実験では音楽を「1人で聞く」「少人数で聞く」「大人数で聞く」の3つのグループに分けます。とはいっても、実験はオンライン上です。そこで、自分がどのグループに属しているかについては、地図上に参加者の所在をピン留めすることで、自分の近くに人がいることを感じてもらいます。

2つ目の実験はフランス在住の111名を対象に、実験1とほぼ同内容の実験を行います。ただし、その後被験者には、バーチャル上のパートナーとお金を共有したり、非営利団体に寄付する意思等を確認するといった、社会性に関わる課題を行ってもらいます。

先にこの2つの実験から得られたことを述べれば、参加者は実験の中で、より大人数で音楽を聞いた方が、快楽度が増したり、社会性が向上したことがわかりました。さらに驚くべきは、オンライン上の「仮想の人々」と一緒でも、快楽が増すという点でしょう。

さらに3つ目の実験は、クラシック音楽を聞いてその内容をテストするものでした。これについても、大人数で聞いた人の方が、内容をより多く記憶する結果が得られました。研究者によれば、大人数で音楽を聞いたことによる脳の活性化が、その時の記憶の向上に関係した可能性を指摘しています。

いずれにせよ、他者と聞く音楽は、私たちに多くの喜びをもたらすと言えるでしょう。

◾️音楽は録音より生の方が良い

スイスのチューリヒ大学の研究グループが2024年2月に発表した論文「Live music stimulates the affective brain and emotionally entrains listeners in real time(ライブ音楽は感情と脳を刺激し、リスナーをリアルタイムで感情移入させる)」も興味深いものです。

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2316306121

研究ではまず、プロのピアニストが心地よい感情を引き出すものと、不快な感情を呼び起こす30秒の音楽をそれぞれ6曲、計12曲作成します。

そして、27名の被験者は、脳波を測定するfMRI(磁気共鳴機能画像法)の装置の中で、これらの音楽をイヤホンを通して聞くのですが、録音したものと、生で演奏している音をそれぞれ届けます。被験者には録音と生演奏があることを告げません。

逆に生演奏中のピアニストは被験者の脳波をモニタリング可能で、左の扁桃体の活動を観察することが可能です。左扁桃体は、音楽によって生じる情動的感情に反応する部位であり、音楽と感情を強く結びつけるものと言えるでしょう。これによって、ピアニストは音を調整しながら、左扁桃体の活動を活性化することが可能となります。

実際、実験の結果は、心地よい音楽も不快な音楽も、ともに生演奏のものの方が、左扁桃体の活動が強く現れました。今回の研究はピアニストの調整による介入がありますが、おそらく観客が目の前にいる演奏でも、左扁桃体の活動はモニタリングできないものの、長年の経験から左扁桃体の活動を強化する、つまりより感情を刺激≒感動を呼び起こすことができると思われます。

今回紹介した2つの研究をあわせて考えれば、大人数で生演奏の音楽を聞くコンサートやライブがなぜ盛り上がり、感動を呼び起こすのか。その原因が、少なくとも科学的に理解することに貢献するのではないでしょうか。

音楽と感情の研究は、引き続き様々に行われています。

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